要するに、ほとんどの大都市では企業努力で運賃を引き下げようにも「役所が強権を発動して引き下げられない」という話である。新規参入を考える事業者だけでなく、利用者にとっても不都合なのは言うまでもない。
今回の改正タクシー特措法は増車の禁止や免許取り消し、違反者に対する刑罰適用にとどまらず、市場経済の原則を司る独占禁止法の適用除外まで盛り込んでいる。法律本体がそうなのに、法律の運用を担当する役所が局長通達のさじ加減一つでほとんどの大都市に適用できるとなると、これは規制改革どころか改悪といっていいだろう。
たとえば、運賃上限だけ決めて下限はできる限り競争に任せる。それで経営が成り立たなかったり、低賃金で運転手が集まらなかったりした会社には“退場”を迫る。そういう市場メカニズムを働かせるべきだ。
渋滞を考慮すると日本のタクシー料金はシンガポールやソウルはもちろん、パリやローマ、ニューヨークよりも高い。2020年の東京五輪で観光客の不評が心配になる。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年6月27日号