臨床研究段階にある今、対象者の多くは他の治療法では打つ手が無くなった患者だ。560件以上の臨床研究を行なってきた小野氏が、こう説明する。
「通常なら余命1年半に満たない患者が、3~4人に1人の割合で5年以上生存しています」
小野氏らは2018年頃の実用化を目指しているが、課題も残されている。現在、治験で効果が得られているのは脳腫瘍のほか喉頭部、咽頭部、舌、皮膚などの比較的浅い(体表に近い)部位にあるがんだ。理論的には肝臓や肺といった深い部位の(人体の内部に位置する)がんにも適応可能とされるが、現時点では難しい。中性子線を照射する対象となるホウ素化合物が鍵になるという。小野氏が解説する。
「実際には、ホウ素化合物はがん細胞に濃く集まっているだけで、正常な細胞にも一部浸透しています。どれだけがん細胞に濃く集まるホウ素化合物が開発できるかがポイントです。正常な細胞と、がん細胞に集まるホウ素化合物の濃度差が大きいほど、がん細胞のみを破壊する効果が強くなります」
その濃度差が小さいまま深い部位のがんを叩こうとすると中性子線を強く照射しなければならず、患部の手前にある正常な組織も傷つけてしまう。
「現在は8倍程度の濃度差ですが、それが15~20倍となるホウ素化合物が開発されれば、治療が可能になるがんは増えます」(小野氏)
日本人男性の罹患数が多いのは胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、肝臓がんの順だ。それらに適応する日が待たれる。
※週刊ポスト2014年8月15・22日号