大櫛教授は過去の自身の研究成果や欧米の最新論文などをもとに『「血圧147」で薬は飲むな』(小学館刊)を緊急出版し、健康基準についての考え方を世に問うた。
発売早々、大きな話題になっている本書だが、なかでも注目を集めているのが、本書に収録された大櫛教授の70万人調査をもとにした「新『健康基準値』一覧表」だ。それを見ると、現行の基準とは大きくずれていることがわかる。
たとえば60~64歳の男性の場合、血圧は164までが「正常」で、悪玉コレステロールとして知られるLDLコレステロール値についても183までが「正常」となっており、120以上を「異常」とする現行の基準とは大きくかけ離れている。
「現基準値は性別も年齢も分かれていない項目が大半ですが、欧米の複数の調査研究では性差や年齢差でさまざまな疾患に対するリスクが異なることがわかっています。たとえば米マサチューセッツ州フラミンガムの住民を追跡調査した研究では、男性と女性、かつ5歳刻みで心疾患に対するリスクが異なることが明らかになりました。
日本では強引に一つの基準にすることで、本来は健康なはずの人が『病気』とされ、無駄な薬を飲まされている危険性があるのです」
その典型が降圧剤だという。
「降圧剤で少し前までよく使われていた『Ca拮抗剤』に関する無作為化試験(客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験)では、急激に血圧を下げたグループは、少しだけ下げたグループと比較して、死亡率が1.4倍上がったという結果が出ました。
私たちの研究でも180/110以上という血圧高めの方たちのうち、降圧剤を飲まなかった人たちと、降圧剤で160/100未満まで血圧を下げた人たちを比較したところ、薬を飲んだグループの死亡リスクが10倍に跳ね上がったという結果が出ています。
このような降圧剤のリスクは世界では常識とされていますが、日本だけはすさまじい勢いで服用されており、厚労省の平成24年『国民健康・栄養調査報告』では70歳を超える人では54%が服用しています」
※週刊ポスト2014年9月12日号