当然、この事実関係を知っていた人は、池上氏の担当記者、ラインのデスク(部次長)、部長、編集局次長、編集局長などに限られている。そのうちの誰かが自らが信じる正義感であるか会社の現体制に対する不満か、動機はよくわからないが、週刊誌に情報をリークした。「正義の内部告発者」という見方をする人がいるかもしれないが、筆者はそう考えない。むしろ組織が壊れかけているというのが筆者の認識だ。
田中真紀子氏が外相に就いていた2001年、田中氏の信用を失墜する目的で、一部の外務官僚は極秘指定がなされた公電(外務省が公務で用いる電報)を含むさまざまな秘密情報をリークした。
翌2002年1月、田中氏が更迭された後は、鈴木宗男氏の信用を失墜するために極秘文書や改竄文書の写しを外務官僚は共産党に送付した。秘密を守ることができない組織に、リスクを冒して機微に触れる情報を伝える人はいない。こういう稚拙な工作をしたために、外務省は国内外で信用を失った。
朝日新聞で現在起きていることは、あのときの外務省によく似ている。秘密を外部に漏らすような人がいるような新聞社とまともな仕事をしようと考える書き手はいない。
組織規律の確立が朝日新聞社にとって焦眉の課題と思う。
※SAPIO2014年11月号