池上彰一覧

【池上彰】に関するニュースを集めたページです。

トランプ氏の存在感が増す理由とは(写真/EPA=時事)
池上彰氏が予測「2024年にシンゾー・ドナルドのタッグ復活する可能性」
 ロシアによるウクライナ侵攻は、世界情勢を激変させるインパクトをもたらした。なかでもアメリカでは、バイデン大統領の失速とトランプ前大統領の復活という現象が起きている。池上彰氏が、話題の新刊『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』の著者・横田増生氏と語り合った。【全3回の第3回】安倍・岸田に重なる横田:日本の政治にも分断が広がっているように感じます。池上:安倍晋三元首相はトランプの手法を取り入れて国民を敵と味方に分けました。彼は首相の時、秋葉原の都議選応援演説で聴衆から批判され、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言した。さすがトランプと仲がいいだけのことはあります。 一方で現職の岸田文雄首相は昨秋の衆院選の応援演説であちこちに行っても絶対に野党を批判しなかった。安倍さんの時はアンチが押しかけ騒動になったけど、アンチ岸田はいません。横田:なるほど。池上:衆院選の終盤に安倍さんが「もっと野党の批判をしろ」とアドバイスしても、岸田さんは共産党を軽く批判しただけでした。ただトランプの後にバイデンが国をひとつにまとめようと一生懸命やるけど弱々しくて頼りないのと同様に、岸田さんも安倍さんが進めた分断を修復しようとしているけど、どこか弱々しくて頼りない。バイデンと岸田さんが似たもの同士に見えます。横田:確かに安倍さんは旗幟鮮明でわかりやすい。アンチがいる一方で安倍熱狂支持者みたいな人もたくさんいて、非常にトランプ的です。しかし政治的な対立相手を敵視し、身内でもちょっと批判したら徹底的にやっつけるのでは民主主義が死んでしまう。池上:実際に自民党の保守層から岸田さんへの批判が多く聞こえます。アメリカはバイデン支持者とトランプ支持者に分断されますが、日本は自民党内で分断が起きています。それで岸田さんは、安倍さんや高市早苗さんからの批判をすごく気にしています。 だからこそ、岸田さんは今年の夏の参院選が重要です。岸田内閣が圧勝すれば向こう3年は選挙がなく、安倍さんの言うことを聞かず岸田カラーを打ち出せる。だから彼は今年の7月に政治生命を懸けています。横田:アメリカも11月に中間選挙があります。池上:岸田さん同様、バイデンも中間選挙に政治生命を懸けるはずです。横田:アメリカの中間選挙は現職大統領の政党が不利とされます。今回も民主党がかなり議席を減らしそうですが、それがトランプの勢いにつながるかは不透明です。中間選挙の前哨戦とされた昨年11月のバージニア州知事選で勝利した共和党のグレン・ヤンキン知事は、トランプとある程度一線を引いていました。池上:ヤンキン知事は最初にトランプの支持を得てトランプ支持者の票を確保し、次に穏健な政策を打ち出して当選しました。中間選挙では、こうした「トランプ隠し」の戦略をとる共和党候補者が増える可能性がある。横田:それは上手な立ち回りです。池上:しかし結果として共和党の当選者が増えれば、「それ見たことか。俺が推薦したからだ」とトランプの勢力が増すかもしれません。2024年に何が起こるのか横田:そうなると2024年の大統領選はどうなるでしょう。通常は現職大統領が有利ですが、バイデンの失速は明らかです。民主党は次の大統領候補とされたカマラ・ハリス副大統領が経験不足で味噌をつけ、ヒラリー・クリントンの再出馬まで取りざたされています。かなり混迷した状況です。池上:共和党はどうでしょうか。横田:トランプはかなりの確率で共和党の大統領候補者になるでしょう。でもトランプはヒラリーに勝った2016年もバイデンに負けた2020年も総得票数では相手に敗れています。鉄板支持者のほかに、郊外に住む無党派の有権者や、民主党右派をどれだけ取り込めるかがポイントです。池上:私は6対4でトランプが大統領になる可能性があると思います。横田:えっ、6割とはずいぶん高い確率ですね。池上:トランプは嫌だけど積極的にバイデンを支持しようという気になれず、前回はバイデンに入れたけど次回は入れない人が出てくるのではないでしょうか。それに昨年、共和党主導でアメリカの19州で選挙法が改正され、期日前投票の有権者の本人確認を厳格化することが決まりました。運転免許などのIDを持たない黒人やヒスパニックが投票しにくくなり、民主党の票が減る影響が大きいと考えられます。横田:トランプが大統領として復活する日が本当に来るかもしれない。池上:日本でも岸田首相が躓けば保守層から待望論が出て安倍さんが首相に返り咲くかもしれない。まだテレビで言ったことはないですが、2024年にシンゾー・ドナルドの日米首脳タッグが復活する可能性もあると思います。横田:再び民主主義が危機に陥る。そんな不安に苛まれながらこの2年を過ごすことになりそうです。(了。第1回から読む)【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊子どもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で新潮ドキュメント賞受賞。『「トランプ信者」潜入一年』を刊行。※週刊ポスト2022年3月18・25日号
2022.03.09 07:00
週刊ポスト
トランプ陣営の選挙ボランティアとして1年にわたる潜入取材を行った横田増生氏
トランプ復活、アメリカの実情「ノーマスクの支持者に囲まれて」現地取材
 ロシアによるウクライナ侵攻は、世界情勢を激変させつつある。なかでもアメリカでは、これに伴いバイデン大統領の失速とトランプ前大統領の復活という奇妙な現象が起きている。テレビ解説でもおなじみの池上彰氏が、話題の新刊『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』の著者・横田増生氏と語り合った。【全3回の第2回】日本にも「Jアノン」池上:それにしても横田さんはよくコロナ禍のアメリカで取材しましたね。横田:2019年12月にアメリカに入国し、トランプ陣営の選挙ボランティアとして1年にわたる潜入取材を行ないました。池上:ノーマスクのトランプ支持者に囲まれ、身の危険を冒しながら潜入取材されたおかげで、アメリカの実情を知ることができます。熱烈なトランプ支持者はトランプが言ったことを完全に信じるわけですね。特にコロナの初期には「コロナなんてすぐ消える」と発言して、支持者がそれを信じ込んだ。横田:トランプは記者会見でも自分が中心になりたくて「俺は医者よりもコロナに詳しい」「消毒薬を使えばいい」とでまかせを言った。賢明な人は失笑するけど、言葉通りに受け取る支持者も多いんです。その人たちに「大統領は嘘をついているとワシントン・ポスト紙に書いてありますよ」と言っても、「いや、ワシントン・ポスト紙がフェイクニュースだ」と返すので話が噛み合わない。池上:現代のネット社会において、人々は「自分の信じたいことを信じる」ようになりました。コロナを風邪とする人とトランプ支持者もかなりダブりそうです。横田:トランプは在任中、マスクの着用を拒否し、「ワクチンを接種するのは弱虫だ」とのイメージを発信し続けました。おかげで集会に来るトランプ支持者のマスク着用率は低く、多くても4割ほどです。マスクをしたアジア人は僕くらいなので非常に目立ちました。池上:ただ、そもそもアメリカにはワクチンやマスクを拒否する伝統があります。理由は大きく2つあって、自由を尊び強制を拒む価値観が1つ。もう1つはエバンジェリカル(キリスト教福音派)が、感染症や天変地異は神から与えられた罰であり、ワクチンやマスクをして逃れるのは許されないと考えることです。横田:実際にアメリカではマスクを拒否した福音派の牧師が何人か死んでいます。しかも福音派はトランプの熱烈な支持者が多い。逆にアメリカから見ると日本人のマスク好きが異常で、「日本ではプライムミニスター(首相)が国民にマスクを配ったんだ」と教えたら、みんな目を白黒させていた(笑)。池上:2021年1月の連邦議事堂襲撃事件について、最近のトランプは「支持者は平和的に議事堂を訪問しただけだ」と言い始めた。横田さんはあの時、現場を取材していましたね。横田:そうです。僕は議事堂の正門付近で取材していました。すぐ近くでトランプ支持者と警察が火花を散らしてぶつかり合い、最後は催涙スプレーを頭から浴びてほうほうの体で逃げました。平和的なデモ隊とはとても言えない状態でした。池上:多くの人間が襲撃を目撃して映像も残っているのにトランプが「平和的」と言えば支持者が信じることが恐ろしい。横田:やはりメディアの力が大きいですね。トランプ支持者はFOXニュースやワン・アメリカ・ニュース・ネットワークといった偏った保守系メディアしか見ない。でもこれは対岸の火事ではなく、日本もアメリカに近づいていると思います。池上:その通りです。アメリカでは「Qアノン」という陰謀論集団が話題ですが、日本でもトランプを支持し、大統領選挙が盗まれたと主張する「Jアノン」がいます。私が「トランプは人権問題を重視しない」とテレビで発言したら、彼らの抗議が殺到して炎上騒ぎになりました。横田:トランプがいつ人権を重視したんですか。池上:某タレントは「トランプは新疆ウイグルの人権問題の法律を作った」と言いましたよ。アメリカの法律は議会が作るもので大統領はただサインするだけという仕組みを知らないんです。(第3回に続く)【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊子どもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で新潮ドキュメント賞受賞。『「トランプ信者」潜入一年』を刊行。※週刊ポスト2022年3月18・25日号
2022.03.08 07:00
週刊ポスト
トランプ氏の存在感が増す理由とは(写真/EPA=時事)
【池上彰×横田増生対談】トランプ氏、ウクライナ侵攻の間隙を縫い存在感増す
 ロシアによるウクライナ侵攻は、世界情勢を激変させるインパクトをもたらした。なかでもアメリカでは、これに伴いバイデンの失速とトランプの復活という奇妙な現象が起きている。テレビ解説でもおなじみの池上彰氏が、話題の新刊『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』の著者・横田増生氏と語り合った。【全3回の第1回】共和党が「トランプ党」に横田:ついにロシアがウクライナに侵攻しました。池上:際立つのはバイデン大統領の弱腰です。彼は事前にロシア軍がウクライナに侵攻した際の対応を問われて、「軍事力を使うことは検討していない」と語りました。これでプーチン大統領は安心して軍を動かすことができた。外交の定番として「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と言うべきだったのに、素人のような発言でした。横田:その間隙を縫って存在感を増しているのが前大統領のトランプです。ロシア軍の侵攻開始後、「俺が大統領ならこれは起きなかった」「我々の指導者は愚かだ」と早速バイデンを批判しました。池上:自分が大統領の時はロシアに弱腰で「プーチンを尊敬している」とまで言っていたのに、手の平を返してバイデンを叩いていますね。横田:確かに大統領時代のトランプは、ロシアに弱みを握られていると囁かれるほど及び腰でした。過去にモスクワのホテルで複数の売春婦に変態プレイをさせていたところを隠し撮りされたとの噂もありました。池上:大統領選の頃からトランプはバイデンを「スリーピー・ジョー(寝ぼけたジョー)」と揶揄していました。バイデンが大統領に就任してアフガニスタンから撤退した時も「米国史上最大の外交政策の敗北」と糾弾した。でもそもそもアフガンから撤退を決めたのはトランプでした。横田:そのあたりの事実関係がメチャクチャですよね。それなのに共和党内でトランプの人気が高まっています。昨年1月6日、トランプ支持者が連邦議事堂を襲撃して多数の死傷者を出す事件が勃発してトランプの政治生命は尽きたと思いましたが、ここに来て復活しました。 トランプは連邦議事堂襲撃の弾劾裁判で弾劾に回った共和党の議員に復讐の攻撃を仕かけて、次々と追い落としています。もはや共和党にトランプに逆らえる議員はほとんどおらず、共和党が「トランプ党」になった。池上:このタイミングで新たなSNSもスタートしました。トランプは連邦議事堂襲撃を煽ったとしてツイッターとフェイスブックのアカウントを凍結されたのですが、2月末に独自SNS「トゥルース・ソーシャル」のサービスを始めた。初日には待ち構えていたトランプ支持者が申し込みに殺到して、サーバーが止まる人気ぶりでした。横田:僕もダウンロードできませんでした(苦笑)。トランプのツイッターアカウントはフォロワーが9000万人近くいましたが、新しいSNSにどれだけコアなファンがついていくか興味深い。池上:SNSでは自分の見たいものや聞きたいものだけが響き渡る「エコーチェンバー」という現象が起きます。トランプ独自のSNSによって、アメリカ国民の分断が一段と進むでしょう。 ただし、私はバイデンが大統領に就任してもアメリカがひとつにまとまることはあり得ないと思っていました。アメリカにもともとあった分断を目に見えるかたちで顕在化させたのがトランプ。それをひとつにまとめるのはなかなかの難問です。横田:トランプには4700万人とされる鉄板支持者がいて、いまだにバイデンを正式な大統領として認めていません。そんな人たちが有権者の3割以上いて、国がまとまるとは思えません。(第2回につづく)【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊子どもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で新潮ドキュメント賞受賞。『「トランプ信者」潜入一年』を刊行。※週刊ポスト2022年3月18・25日号
2022.03.07 11:00
週刊ポスト
かつての王者、TBSラジオの凋落に歯止めはかかるか
『東大王』にも影響?「クイズ番組が学歴信仰を助長」の批判が番組制作の逆風に
 1月15日、大学入学共通テスト初日に東京大学本郷キャンパスの試験会場前で起きた刺傷事件が、テレビ界に思わぬ波紋を広げている。事件を起こした名古屋の進学校に通う少年が、かねて東大を目指しており、教師から「東大は無理」と言われたことから犯行に及んだことが明らかになると、行き過ぎた「東大信仰」への批判が文化人から相次いだ。なかでも標的になったのは、学歴ブランドを全面に押し出した番組作りをしているテレビ局である。 ジャーナリストの池上彰氏が1月24日付の日本経済新聞朝刊に寄せたコラムでは、「東大だけが人生ではない」ことを受験生たちへのメッセージとして伝えている。一方、民放のテレビ局を厳しく批判した。〈指摘したいのは、最近の民放のクイズ番組の数々です。出演者のタレント一人ひとりの出身校が明記され、まるで「大学対抗戦」の様相を呈していたり、東大生がいかに物知りかを強調した番組だったり。そんな番組が増えてきたことにあきれていたのですが、こんな事件が起きてしまうのを見ると、黙ってはいられなくなりました。(中略)最近の傾向を見ると、「恥ずかしくないですか」と言いたくなります〉 この批判はネット上で大きな反響を呼び、コラムニストの小田嶋隆氏はツイッターで記事をリツイートしながら、〈ほんと「東大王」とか、作ってて恥ずかしくないのだろうかね〉と番組名まで挙げて辛辣なコメントを寄せた。 脳科学者・茂木健一郎氏も自身のブログで、〈日本の一部のテレビ局の、特定の大学生、特に東大だけを「スター」として扱うような演出方針は、青少年の心の成長に悪影響を与えるものとして議論されるべき時期が来ていると思う〉と指摘。学歴ブランドを活かした番組作りに逆風が吹いているのは間違いない。 そうしたクイズ番組の代表格と言えるのがTBS系の『東大王』だろう。はたして番組制作に影響はあるのだろうか。TBSに、番組が学歴信仰を助長する可能性についてどう考えるか質問したが、「そのようなことはない」(広報部)との回答だった。 だが一方で、いまだに東大が多くの受験生の目標であり憧れであることも事実。テレビ局は難しい判断を迫られることになる。
2022.02.02 07:00
NEWSポストセブン
トランプ氏が去った今、アメリカに何が起きる(写真/AFP=時事)
池上彰氏「トランプは過去の人ではない」 再び影響力持つ可能性も
 アメリカの経済対策やコロナ対策などをめぐっては、日本ではトランプ前大統領の名前を聞く機会が少しずつ減り、「バイデン大統領」を主語とする報道が増えてきた。しかし、「トランプ氏の政治への影響力は依然として大きく、特に共和党に対しては非常に強い力を持っている」と指摘するのは、『池上彰の世界の見方 アメリカ2』の著書があるジャーナリストの池上彰氏だ。池上氏が「トランプ氏の今後」について解説する。 * * * 今年1月6日のアメリカ・ワシントンで起こった大事件を覚えていますか? トランプ支持者が議会まで行進、一部が議会に乱入し、警備の警官が発砲。トランプ支持者4人が死亡し、警備の警官もひとり亡くなった悲惨な事件でした。その後、当日警備に当たった警察官2人が自殺しています。警察官にとってもショックだった出来事でした。 アメリカの大統領選挙は複雑です。11月の選挙で選ばれるのは大統領選挙人で、この人たちが投じた票が1月6日に連邦議会で開けられることになっていました。本来、形式的な開票作業が行われるだけのはずだったのですが、トランプ大統領(当時)が当日、ホワイトハウスの前に支持者を集め、「連邦議会に行進しよう」と呼びかけました。開票作業に圧力をかけようとしたのです。その結果として、あの暴挙が起こったのです。 トランプ大統領は翌7日夜になってようやく、乱入した暴徒たちを批判し、速やかな政権移行を約束しました。その後、1月20日の大統領就任式典には出席せず、フロリダに移動しました。最近ではトランプ前大統領よりも、バイデン大統領についての報道が多くなったため、トランプ前大統領への関心も低くなったように感じます。 さて、トランプ前大統領は「過去の人」になったのでしょうか?トランプ弾劾決議に賛成した共和党議員に抗議が殺到 私はトランプ前大統領の政治への影響力は依然として大きく、特に共和党に対しては非常に強い力を持っていると考えています。 共和党の中にも「トランプはひどすぎる」と考える人たちがいたことはご存じでしょう。上記の議会乱入事件をめぐり、乱入を扇動したとしてトランプ大統領への弾劾訴追する決議案が議会にかけられました。下院では賛成多数で可決されましたが、このとき共和党からも決議に賛成した議員が10名いたのです。しかし彼らは、今、大変な目に遭っています。 例えばディック・チェイニー元副大統領の娘であるリズ・チェイニー下院議員は、下院のナンバー3の地位にある人物ですが、トランプ大統領の弾劾決議に賛成しました。そのため、この地位から退けという強い圧力にさらされました(2月3日、チェイニー議員の地位をはく奪しないことを下院共和党が可決)。 それだけではありません。この10名には、地元の選挙区で「次の選挙では応援しない」「政治資金を出さない」などといった意見や抗議が殺到。脅迫もあったようです。 こういった事態を見てしまうと、来年11月に改選を迎える上院議員はトランプのいうことを聞くようになります。 次の選挙が4年後であるとか、もう引退を決めている上院議員はトランプを批判することができるけれども、それ以外の議員は批判できないでしょう。「サルは木から落ちてもサルだが、代議士は選挙で落ちればただの人だ」という言葉があります。「だから選挙で落ちるわけにはいかないのだ」という、政治家の心理を表しています。大野伴睦という政治家(故人)の言葉だとされていますが、アメリカの政治家にも落選を恐れる心理はあるのです。まして生命の危険を感じれば、なおさら批判できなくなります。バイデン政権が史上最弱になる可能性も 昨年の大統領選終盤、具体的な根拠を示さないのに郵便投票の中止を求めたトランプ大統領に対し、身内の共和党の重鎮議員からも批判の声があがりました。しかし、今は状況が違うようです。なお、郵便投票をめぐる混乱など、昨年の大統領選については『池上彰の世界の見方 アメリカ2』で詳しく書いたのでそちらをご覧ください。 1月28日、共和党下院トップのマッカーシー院内総務がわざわざフロリダにトランプ前大統領を訪ね、来年の中間選挙の協力を求めたのです。トランプ前大統領の協力で議会の勢力が逆転したとなれば、彼の影響力は飛躍的に高まるでしょう。 大統領選挙に敗れたとはいえ、トランプ前大統領の得票数は7400万票以上。現役の大統領(当時)としては過去最多です。黒人にもトランプ支持者はいます。例えば黒人でもビジネスパーソンであれば、減税政策をとったトランプ政権では恩恵にあずかりました。彼らは今も支持していることでしょう。来年の中間選挙で共和党が議会の主導権を握る可能性は小さくないのです。もし逆転すれば、バイデン大統領は史上最弱の大統領になる可能性があります。 現在でも、バイデン大統領の支持率は57%。戦後歴代大統領の1期目の最初の調査における平均支持率が60%ですから、支持率は高くありません。ただし、民主党支持者の98%はバイデン大統領を支持しています。これに対し、共和党支持者では11%しかバイデン大統領を支持していません(2月6日付、日経新聞)。ここまでアメリカの分断は進んでしまったのです。これだけを見ても、バイデン大統領の政権運営はかなり難しいものになると考えられます。 バイデン大統領は国際会議の演説で「アメリカは戻ってきた」と発言しています。もちろん、国際政治の舞台に戻ってきたという意味でしょう。しかし、来年の中間選挙などのアメリカ国内の政治状況によっては、トランプ前大統領の影響力が戻り、再び「トランプは戻ってきた」となる可能性も高いのです。【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者などを経て1994年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年NHKを退職しフリージャーナリストに。現在、名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、関西学院大学、日本大学、順天堂大学、東京大学などでも教鞭を執る。 主な著書に『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズ、『池上彰のまんがでわかる現代史』シリーズ、『伝える力』、『私たちはどう働くべきか』など。近著は『池上彰の世界の見方 アメリカ2』。
2021.03.06 16:00
NEWSポストセブン
ミャンマーのクーデターは世界が見守る
ミャンマーのクーデターで得する「中国」という“嫌われる存在”
 軍事クーデターから1か月。ミャンマーでは抗議デモが続き、軍が銃撃するなどして多数の死傷者が出ている。混乱が深まる中、欧米による制裁などのリスクが浮上し、外資がミャンマーに投資しにくい状況が生まれつつある。それに喜んでいるのが中国だ。『池上彰の世界の見方 東南アジア』の著書があるジャーナリストの池上彰氏がミャンマー情勢を解説する。 * * * 今年2月1日、ミャンマー軍がクーデターを起こしたニュースは世界に大きな衝撃を与えました。ノーベル平和賞を受賞したこともあるアウンサンスーチー国家顧問を含む政権幹部を拘束したというのですから当然でしょう。 ミャンマーでは2015年に軍事独裁政権が幕を下ろし、民主的な国家となったと思われていました。それなのになぜ、軍によるクーデターが起きたのか、その理由を考えてみましょう。 実はミャンマーは民主的な国家となったとは言っても、その民主化は形ばかりのものでした。ミャンマーは二院制ですが、両院ともに定員の4分の1の議席は国軍最高司令官が指名する軍人議員に割り当てられることが憲法で決まっているのです。この規定は民主化する以前に決まっていました。 残りの4分の3の議席が小選挙区から選ばれるわけですが、軍の利益を代表する政党があり、この政党がある程度の議席を確保すると、軍と対立する民主主義的な政党は残りの4分の3を取ることはできません。最初からそのような仕掛けがあったわけです。 これまで政権を担ってきた政党NLD(国民民主同盟)のトップはアウンサンスーチーさんですが、彼女の肩書は国家最高顧問兼外務大臣です。国家元首たる大統領ではありません。実は、軍事政権の時に、憲法を改正していたのです。どういう改正か。親族が外国人の者は大統領になれないという改正です。スーチーさんの夫(故人)はイギリス人でした。二人の息子もイギリス国籍です。つまり、彼女を大統領にさせないようにしていたわけです。その憲法は、いまだに改正できず、スーチーさんは大統領になれないままだったのです。 このように軍に有利な規定が憲法にあったにもかかわらず、なぜクーデターが起きたのでしょう。 実は昨年11月の選挙で、選挙で決まる議席の約8割をNLDが獲得しました。これにより全議席の過半数をNLDが占めることになります。そうなると、軍が保持したい利益や権力が維持できなくなる可能性がある。そういう危機感から、軍は「11月の選挙で不正があった」と言い続けました。そして、議会が開かれる当日に軍がクーデターを起こしたわけです。議会が何かを決めることができないようにするために起こしたと言えます。 11月の選挙には日本をはじめ世界各国が選挙監視団を送り、選挙が平穏に順調に行われたことを確認しています。少なくとも大規模な選挙不正は見つかっていないのです。軍による言いがかりと考えていいでしょう。 ではこのままクーデターを起こした勢力による政権が続くのか。これはまだわかりません。多くのミャンマー国民が反対運動を起こしています。これがどこまで続き、どこまで広がるかを見ていくしかないでしょう。 ひとつ、クーデターを起こした勢力に有利に働いていると思うのは、民主化以前、軍事政権が首都を移していたことです。現在の首都はネーピードーですが、2005年11月以前はヤンゴン(旧名ラングーン)でした。もし、ヤンゴンで反対運動が盛り上がっていたら、首都にある政権は危機的な状況になったでしょう。人口の少ないネーピードーに移転していたことがクーデター勢力に有利に働いています。首都移転は軍事政権時代のことですから、軍事政権が倒れないようにするための手立てだったのではないかと感じます。親日的で中国嫌いの人々 さて、テレビのニュースなどで、日本にいるミャンマー人の人たちがクーデターに反対する抗議運動をしている映像を見た人も多かったのではないでしょうか。その映像の中で、在日ミャンマー人のひとりがこんなことを言っていました。「ミャンマーには日本企業がたくさん進出しているけど、ミャンマーの人は悪く思っていない。だから日本政府もミャンマーの政府に抗議してほしい」 この発言は、ミャンマー人が親日的だと伝えて、そんなミャンマーを救ってほしい、日本がミャンマー軍事政権に圧力をかけることを期待しているということですよね。「ミャンマーを助けてほしいから、親日をアピールしている」と捉える人がいるかもしれませんが、そうとは言えないのです。 日本は戦前、スーチーさんの父・アウンサン将軍を助けてイギリスからの独立を支援したという過去があります。ただ、日本は傀儡のビルマ国をつくり、アウンサン将軍を失望させてしまうのですが。それでも、現在も日本の「軍艦マーチ」がミャンマー軍の行進曲として使われています。こうした日本とのつながりがあり、親日的な人が多いのです。アウンサンスーチーさんは、かつて京都大学東南アジア研究センターに客員研究員として在籍していたことがあります。ミャンマーの歴史や、アウンサンスーチーさんの半生、日本と東南アジアの関わりなどについては、『池上彰の世界の見方 東南アジア』で詳しく述べているので、興味がある方はお読みになってください。 逆に中国はミャンマーでは嫌われています。ミャンマーは民主化してから、中国からの投資や援助の割合を減らしてきていました。中国が有償援助をしたり、お金を貸したりという場合、金利が高いのです。世界銀行から借りた場合の金利が1%だとすると、中国から借りると4%から7%くらいになります。そして借金が返せないと実質的に中国のものになってしまうということが、スリランカなどでは起こっています。こういうことに警戒しているわけですね。だから、ミャンマー政府は中国からの投資や援助の割合を減らし、日本や欧米からの投資の割合を増やしてきました。中国はミャンマーをどう見ているか 今回のクーデターで欧米が投資や援助を減らしてしまうと、ミャンマーは中国頼りになってしまうでしょう。現在のカンボジアやラオスがそのようになっています。さて、日本はどうするのか。欧米と歩調を合わせるか、それとも投資や援助を続けるのか。非常に難しい選択です。 中国にしてみれば、ミャンマーを押さえれば、そこから南、つまりインド洋に出られるわけです。今、日本やオーストラリア、アメリカなどは、インドを中国ではなくて、自由主義国の陣営に入れようとしています。もしそれが実現すると、中国にとっては厄介ですが、ミャンマーを押さえられれば、インド洋に自由にアクセスできるわけです。 今回、中国はミャンマーの軍事政権を批判していません。それには狙いがあります。ミャンマー情勢を知るには、ミャンマーについてのニュースを見るだけでは不十分です。中国や欧米の反応を見ることも重要です。これからも注目していきましょう。【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/ジャーナリスト。1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者などを経て1994年から11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年NHKを退職しフリージャーナリストに。現在、名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、関西学院大学、日本大学、順天堂大学、東京大学などでも教鞭を執る。主な著書に『池上彰の世界の見方』シリーズ、『池上彰のまんがでわかる現代史』シリーズ、『伝える力』、『私たちはどう働くべきか』などがある。
2021.03.03 07:00
NEWSポストセブン
バイデン政権では日米外交にどんな違いが?(写真/AFP=時事)
バイデン新政権下での日米関係「外務省はやりやすくなる」と池上彰氏
 1月20日にジョー・バイデン大統領が就任。アメリカの同盟国である日本には、どんな影響があるのだろうか。長年大統領選を取材してきた池上彰氏と、アメリカでトランプ陣営への潜入取材を続けてきた横田増生氏が緊急対談した。 * * *横田:日米関係はどうなるでしょうか。池上:外務省からするとトランプ氏は予測不能だけど、常識人のバイデン氏なら何をするかが読めます。多国間の関係も重視するので、外務省はやりやすくなるでしょう。横田:確かにトランプはすべて損得勘定の人で、グループよりも2国間の関係重視でしたからね。池上:ただし米中が対立して「どっちにつくんだ」と迫られたら、日本は困ります。自由と民主主義という理念でいえば、もちろんアメリカが大事だけど、経済面で中国を切るわけにはいきません。冷戦時代に中国との関係では政治と経済を分ける「政経分離」が唱えられましたが、その現代版になる気がします。横田:世界的にも中国の経済力に同調する国は増えるでしょうか。池上:東南アジアやアフリカなど、中国に肩入れする国は間違いなく増えています。ただ中国の経済力を頼りにしてきたEUは近年、メルケル首相のドイツを中心に中国離れが進んでいます。それは中国から遠いからできるわけであって、隣国である日本ではそうはいかない。今後、バイデン氏から「中国の技術を使うな」などと横やりが入ると、日本は非常に苦しい立場になります。横田:とはいえ、今のアメリカは日本のことは眼中にないですよね。今回の大統領選ではトランプのスピーチを数多く聞きましたが、彼の口から「ジャパン」と言う言葉が出てきたことはほとんどありません。1回だけ「俺がアベ(安倍晋三・前首相)にミシガンの工場を作らせた」と自慢していましたが、まるっきり嘘ですから。池上:バイデン氏の演説にも日本への言及はありません。私は2008年から大統領選を取材しているけど、大統領候補が日本に触れることはなく、日米関係を気にしているアメリカ国民は皆無と言っていい。ヨーロッパやロシア、中国には関心がある一方、日本はどうせ仲間だろうとの意識もあるし、そもそも日本がどこにあるかわからないアメリカ人がたくさんいます。横田:日本のニュースはほとんど報じられないから、菅政権が誕生して何がどうなったか、僕にはよくわかりません。池上:バイデン氏が当選した時、トランプ氏と昵懇の安倍さんが首相だったら困ったでしょうね。「バイデン次期大統領」と言おうものなら、トランプ氏に「シンゾー、お前は認めるのか。この裏切り者」と詰られたかもしれない。 その分、菅さんとバイデン氏なら余計な心配をせず、「仲良くしましょう」と話ができます。ただしバイデン氏と菅さんでは、本当に地味な印象になります(苦笑)。横田:バイデンのいいところは、トランプのように嘘をつかないところです。彼は先妻と子供2人を事故や病気で亡くし、弱者への思いが強い。池上:東日本大震災の時も、副大統領として宮城県名取市を訪れて被災者を激励しました。横田:トランプには欠落している慈愛の精神があります。池上:これまでは良くも悪くもトランプ氏にかき回されたので、皮肉な言い方をすれば、これからの日米関係は面白くなくなるでしょう。本来、国と国との関係はそうあるべきなんです。【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小社刊)で新潮ドキュメント賞受賞。写真はトランプ陣営の選挙ボランティアに潜入時。※週刊ポスト2021年1月29日号
2021.01.21 16:00
週刊ポスト
池上彰氏と横田増生氏
池上彰×横田増生対談 「トランプの方がよかった」が中国の本音か
 1月20日にアメリカにジョー・バイデン大統領が誕生。長年大統領選を取材してきた池上彰氏と、アメリカでトランプ陣営への潜入取材を続けてきた横田増生氏が緊急対談。バイデン新政権の対中政策について意見を交わした。 * * *横田:トランプは極端な対中強硬路線を敷きましたが、バイデンの対中政策はどうでしょう。池上:これも難しい。トランプ氏がずっと中国の悪口を言い続けてきたので、アメリカ国民は共和党支持者も民主党支持者も中国が大嫌いになりました。この状況でバイデン氏が中国との関係を改善しようとしても、しばらくは無理でしょう。横田:トランプの中国叩きはトランプ信者にも浸透していて、彼らは中国のことを「CCP」と呼びます。「Chinese Communist Party(中国共産党)」の略で、彼らは「とにかくCCPが悪いんだ」と言うんです。池上:最近はトランプ氏だけじゃなく、ペンス副大統領やポンペオ国務長官も中国と言わず、わざわざ「中国共産党」と口にしますね。以前は単なる中国叩きだったけど、この頃は「中国共産党が許せない」と言う。かつて日本の一部保守派が「中共」と批判的に呼んでいたニュアンスに近い。横田:なるほど。池上:もうひとつ米中の火種になるのは、人権問題です。トランプ氏は経済問題に言及するばかりで、新疆ウイグルや香港で起こっていることに無頓着でしたが、人権問題を大切にする民主党のバイデン氏は問題視せざるを得ない。中国は人権問題に口を挟まれたら必ず猛反発するので、米中関係が深刻化する可能性があります。中国は本音では、バイデン氏よりもトランプ氏のほうが良かったはずです。【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小社刊)で新潮ドキュメント賞受賞。写真はトランプ陣営の選挙ボランティアに潜入時。※週刊ポスト2021年1月29日号
2021.01.20 16:00
週刊ポスト
池上彰氏と横田増生氏
池上彰氏、バイデン政権の不安「日本もアメリカも民主党は内紛する」
 トランプ氏と支持者らによる強烈な抵抗が続く中、いよいよ1月20日にジョー・バイデン大統領が誕生する。長年大統領選を取材してきた池上彰氏と、アメリカでトランプ陣営への潜入取材を続けてきた横田増生氏が緊急対談した。 * * *横田:トランプ支持者は「バイデンを大統領として認めない」と口を揃えて言います。7400万人(※トランプ氏は大統領選で現職としては最高となる7400万票を獲得した)全員ではないにせよ、その大半がアンチ・バイデンとみられる。逆風の中の船出となるバイデンは大変ですね。池上:バイデン氏はアメリカ大統領史上、最弱の大統領としてスタートするとの声があるほどです。これまでのアメリカには選挙で争っても、いざ大統領が決まれば国民一丸となって祝福する伝統がありましたが、今は穏健な共和党支持者がトランプ氏に愛想を尽かして姿を消し、その代わりにこれまで政治と無縁だった人が大挙してトランプ氏を支持するようになり、何があろうとバイデン勝利を認めません。共和党自体がトランプ党になってしまった感があります。横田:そう思います。今後もトランプ支持者がアメリカ社会の不安要素であることは間違いありません。何せ彼らは平気でライフル銃を抱えて集会に参加しますからね。池上:日本人は「アメリカ人は政治意識が高くてみんな選挙に行く」と思い込んでいますが、実際の投票率は6割前後で日本と変わりません。一方で、あらゆることを陰謀で解釈する陰謀論者が表に出て、トランプ氏を支持するようになった。トランプ氏の出現でこれまで見えなかったアメリカが可視化されました。横田:こうした状況でバイデンはアメリカをどうリードするでしょうか。池上:なかなか見えてきませんが、一つ言えるのは、多様性を重視する姿勢です。白人中心のトランプ氏とは違い、ラティーノやアジア系、LGBTQなどマイノリティの支持を得て政権を運営しようとしています。 そこで不安要素となるのがバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンといった党内左派です。この人たちは、「バイデンの政策は生ぬるい」として、徹底した累進課税や国民皆保険の実現を訴えています。横田:左からも突き上げを食らうことになると。池上:日本もアメリカも「民主党」という名がつくと内紛します(笑い)。アメリカの民主党左派は、“バイデンは嫌だけど、トランプはもっと嫌”だから、鼻をつまんでバイデン氏に投票した。目下の敵がいなくなれば、内輪揉めが始まります。横田:一つの試金石になるのは、バイデン氏がコロナにどう対処するかでしょう。トランプ氏のコロナ対策は連邦政府と州政府がほとんど連携せず感染拡大を招く一因となりました。が、速やかなワクチン接種や感染拡大防止策でコロナが落ち着けば、人心がある程度、安定するはずです。【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小社刊)で新潮ドキュメント賞受賞。写真はトランプ陣営の選挙ボランティアに潜入時。※週刊ポスト2021年1月29日号
2021.01.17 19:00
週刊ポスト
アメリカでいったい何が起きているのか?(写真/EPA=時事)
米議事堂暴動取材の横田増生氏「アメリカの民主主義が死んだ日」
 トランプ氏と支持者らによる強烈な抵抗が続く中、いよいよ1月20日にバイデン大統領が誕生する。バイデン氏はアメリカをもう一度ひとつにできるのか、それとも“分断”はより加速するのか。同盟国である日本にも大きく影響してくる問題について、長年大統領選を取材してきた池上彰氏と、アメリカでトランプ陣営への潜入取材を続けてきた横田増生氏が緊急対談した。 * * *池上:1月6日午後(現地時間)、バイデン次期大統領の当選を正式に認定する手続きが行なわれていたアメリカ・ワシントンの連邦議会議事堂に武装したトランプ支持者が乱入し、5人が死亡する前代未聞の事件が起きました。横田さんはあの時、大混乱の現場で取材していたそうですね。横田:そうなんです。僕が連邦議会の裏門に到着した時は、すでにトランプ支持者と警察が激しくやり合い、狂気や殺気を含んだ熱狂が充満していました。ほどなくごく近くで閃光弾が破裂し、私自身も警察の催涙スプレーを浴びて目を開けられないほどの激痛に襲われ、誰かが「中で女が殺された! 危ないから逃げろ!」と叫ぶのが聞こえました。トランプ支持者たちは裏門の横にある小窓を破って連邦議会内に侵入していましたが、僕は中に入ったら無事では戻れないと思って、その場に踏みとどまりました。その日はしばらく目が見えづらかったです。池上:中に入っていたらトランプ支持者と間違われて銃で撃たれていたかもしれません。横田:突入した連中は両目を催涙スプレーでやられて、何人も横たわっていましたね。池上:トランプ支持者4人、警官1人が死亡した大惨事でしたが、何より衝撃的だったのは、連邦議会が占拠されたことです。アメリカという国の成り立ちは最初に連邦議会の地位が確立し、その後に大統領の権限が決められました。アメリカの民主主義の中心である連邦議会が襲撃されたのは、1814年に英軍がホワイトハウスを焼き討ちした米英戦争以来です。しかも自国民が連邦議会を襲うなんて“とうとうアメリカもここまで来たか”と絶句しました。横田:おっしゃる通りです。僕は思わず取材メモに、「アメリカの民主主義が死んだ日」と走り書きしました。最大の問題は、襲撃者がみな「トランプが大統領選に勝った」と信じていることです。彼らはトランプの勝利を1ミリも疑っていません。そうした事実誤認が襲撃につながったことが本当に悲しく、トランプが4年間つき通した嘘でアメリカの民主主義が死んでしまったと感じました。池上:4年前にトランプ大統領が誕生した際は、グローバル化で産業の空洞化が進み、工場などが寂れて、見捨てられた労働者が彼を支持したのだと理解できました。ところがこの4年間で極右陰謀論であるQアノンなどが出現して、何の証拠もないのに「大統領選の勝利が盗まれた」と頑なに信じるようになった。なぜそんな荒唐無稽な物語を信じるのか、私にはまるで理解できません。横田:大統領選を現地で1年間取材して肌で感じたのは、トランプ支持者が好むメディアの変化です。最初は保守系テレビのFOXをよく視聴していたけど、FOXがトランプの敗北を認めた今や、彼らはテレビすらまったく見ません。支持者が見るのは、「ニュースマックス」や「ワンアメリカニュースネットワーク(OANN)」という、ファクトチェックが疎かなトランプ寄りの新興の極右メディアだけです。今回僕が話を聞いたトランプ支持者は、「ワシントンポストとニューヨークタイムズとCNNは、ジョージ・ソロス(ユダヤ人投資家)の資金で全部つながっている」と本気で信じていた。池上:そうした熱烈な支持者がいることも、トランプ氏が大統領選の敗北を認めない一因でしょうね。彼は「スムーズな政権移行に協力する」と語るのみでバイデン氏におめでとうの一言もない。これまで多くの元側近が「トランプの知能は小学生並み」と証言していますが、本当に駄々っ子みたいです。横田:今回の襲撃でダメージを受けましたが、トランプは自分の権勢をできるだけ引っ張りたいと思っているはずです。池上:何といってもトランプ氏は大統領選で現職としては最高となる7400万票を獲得しました。しかも世論調査によれば、共和党支持者の4割以上が連邦議会の占拠を評価しています。これは衝撃的な数字です。占拠後に「我々の偉大なる旅路がまたスタートする」とツイートしたトランプ氏は、明らかに4年後の大統領選を意識しています。今後も「負けた」とは絶対に口にせず、「盗まれた」と言い続けるでしょう。【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小社刊)で新潮ドキュメント賞受賞。※週刊ポスト2021年1月29日号
2021.01.15 16:00
週刊ポスト
池上彰さんが選ぶ2020年の3冊 中国のSF『三体』など
池上彰さんが選ぶ2020年の3冊 中国のSF『三体』など
 家にいる時間も長かった2020年。あの人はどんな本を読んだのか? 読書家の著名人4人に「私が選ぶ3冊」を選んでもらった。●池上彰さん(ジャーナリスト)『三体』劉慈欣 監修・立原透耶 訳・大森望ほか(早川書房) アメリカのオバマ前大統領が絶賛して世界的に話題になった中国のSF。文化大革命の描写から始まり、どうなることかと思っていると、古典的な「異星人による地球侵略」がテーマなのだが、そこは現代。意外な展開には舌を巻くばかり。『貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える』アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロほか(みすず書房)『首都感染』高嶋哲夫(講談社文庫)●佐々涼子さん(ノンフィクションライター)『ヤクザときどきピアノ』鈴木智彦(CCCメディアハウス) ヤクザのルポを書いてきた鈴木智彦さん。今回はピアノでABBAの「ダンシング・クイーン」を弾けるようになるまでを描く。身に沁みついたハードボイルドな文体で、ピュアな喜びを描くアンバランスさが魅力。諦めていたことを始めてみたくなる。『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』タラ・ウェストーバー 訳・村井理子(早川書房)『やまゆり園事件』神奈川新聞取材班(幻冬舎)●佐久間文子さん(文芸ジャーナリスト)『炉辺の風おと』梨木香歩(毎日新聞出版) 八ケ岳の山小屋に拠点を持っている著者は、鳥の訪れや、草花の芽吹きで季節を感じながら、謙虚な観察者として自身も自然の一部のように暮らしている。自由に外を出歩けなくなったあいだ、旅に出るような気持ちでこの本を読んでいた。『死ぬまでに行きたい海』岸本佐知子(スイッチ・パブリッシング)『日没』桐野夏生(岩波書店)●温水ゆかりさん(ライター)『日没』桐野夏生(岩波書店) 近未来小説だが、すぐに“歴史小説ね”と言われるかもしれない。リングネームのような筆名のマッツ夢井。彼女が隔離された思想訓練所のような施設での日々を描く。マッツが腹の中で赤い舌を出しながら書く“正しい作文”に笑う。ラストも圧巻。『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ 訳・友廣純(早川書房)『猫だましい』ハルノ宵子(幻冬舎)※女性セブン2021年1月7・14日号
2020.12.19 07:00
女性セブン
池上彰×駐日インド大使対談「多様性がある国の強さとは」
池上彰×駐日インド大使対談「多様性がある国の強さとは」
 9月15日、India & Japan: Future Forum(#日本インド未来会議)でジャーナリスト・池上彰氏と駐日インド大使サンジェイ・クマール・ヴァルマ氏が対談した。人口13億人を抱え、将来的に国際社会において大きな役割を担うといわれるインド。一方で新型コロナウイルスが蔓延し、大きな社会問題ともなっている。日本ともつながりが深いこの国の実情について『池上彰の世界の見方 インド』を上梓したばかりの池上氏が切り込んだ。 * * *池上:インドの国内の状況についてお伺いしたいのですが、モディ首相のもとでいろいろな改革が行われていますね。経済分野の改革は、日本で「アベノミクス」と呼ばれたように、インドでも「モディノミクス」と呼ばれているとお聞きしました。特に高額紙幣をいきなり廃止するという大胆な改革にはびっくりしました。その後の改革の進み具合はいかがでしょうか?ヴァルマ大使:改革はうまくいっていると思います。コロナの影響で、多くのことが後回しになりました。まずは健康と人命を重視したので、命に直接関係のない改革はしばらくの間、優先順位が低かったのです。医療に続いて、経済の再生にフォーカスしました。すべての改革は正しい方向に向かっていると思います。以前に比べれば少し遅れているとは思いますが、このコロナの状況が一段落したら、当初の計画に戻り、以前よりも速いスピードで物事を進めていきます。池上:このところアメリカの大統領選挙のニュースを見ていると、たとえば民主党の副大統領候補にカマラ・ハリスさん。この方のお母さんはインドご出身ですね。あるいは以前、国連大使だった共和党のニッキー・ヘイリーさんもインド系アメリカ人で、4年後には共和党の大統領候補になるのではないかと言われています。アメリカでもインド系の方々が大活躍ですね。ヴァルマ大使:インドからの移住者が多い国はたくさんあります。アメリカでは、政治の世界で活躍するインド系移民が多いのです。他の国についても、3か国でインド系の人物が首相です。インド系の人は、すごく政治的意欲が高いのです。カマラ・ハリスさんもインド人の血を引いています。お母さんがインド出身の方で移民として米国に移っております。18歳で渡米するような独身女性は、まだほとんどいない時代のことです。その後、彼女はテクノロジー、中でもバイオテクノロジーの分野でがんの研究を行っていました。そこで将来の夫、つまりカマラ・ハリスさんのお父さんに出会ったのです。カマラ・ハリスさんは最初から政治に熱心で、現在に至っています。池上:それにしてもインド出身の方がこれだけ世界で活躍している理由はなんだとお考えですか?ヴァルマ大使:インドは多様性のある国です。文化的背景が異なる人々との生活に慣れており、言語、食習慣、服装が違っていても、異文化に慣れるのは難しくありません。それに、インド人が海外に行っても、英語ができることはとても有利に働きます。英語が話せるインド人は、主に英語圏の国に移住し、そこで社会に同化していきました。社会に同化した後は、その一員となって、地元に根付いて生活するのです。池上:今のモディ首相の政策は、特にヒンドゥー教徒からは大変支持を得ている一方で、どうもヒンドゥー教徒を偏重しているんじゃないか。そちらを重視しすぎていて、イスラム教徒はちょっとのけ者にされているのではないかというイメージがあります。またカシミール地方の自治を認めない、こういうやり方によって、インド国内の緊張が高まるという懸念を持っているのですが、それについてはどうお考えですか?ヴァルマ大使:憲法も刑法も民法も、ヒンドゥー教徒と非ヒンドゥー教徒は同じ扱いです。インドではヒンドゥー教徒の人口が最も多いことは事実で、これは変えられるものではありませんが、このことが分断を起こす原因だと見るべきではないでしょう。皆、同じ権利を持っています。ただし、憲法に基づく社会的権利の特例はあります。これは、少数派のコミュニティが独自の文化に基づく自治を持つことを認めたものです。シク教徒、ジャイナ教徒、パールシー(ゾロアスター)教徒、イスラム教徒は、それぞれの文化に応じた決まりを、それぞれ持っています。しかし、宗教は関係なく、みんなインドの市民です。権利もありますが義務もあります。義務は守るべきだと思いますね。池上:インドというのはお話を聞くと本当に多種多様で、その多様であることが大変な問題を引き起こす部分もある。一方で非常に発展する可能性もある。多様性をどう生かしていくのかというのがインドにとって、実に大変な課題ですね。ヴァルマ大使:大変なことだったかもしれませんが、私たちはインドで、多様性の中で長い間一緒にくらしてきました。インド文化というのは現在存在しているすべての文化の総体です。一部はヒンドゥーの文化であり、別の一部はイスラムの文化、また他の一部はパールシー(ゾロアスター教)の文化。すべての文化の要素が含まれています。神はいかなる文化も異なるように創造したわけではありません。すべての文化は、人間性の価値を認め、人類と平和を尊重しています。すべての文化には共通点があります。【国内の発展はもとより国際社会においても存在感を大きくしつつあるインド。だが、現在インドでは新型コロナウイルスが蔓延している。死者、感染者ともにアメリカについで世界2位。いまだ感染者数は猛烈な勢いで増え続けている】池上:インドではこのところ新型コロナウイルスの感染者が非常に増えているということで、大変私は心を痛めています。感染が拡大していることに関して、お見舞い申し上げます。これからの終息の見通しというのはいかがでしょうか?ヴァルマ大使:ご存じかと思いますが、インドは世界で2番目に大きな人口を持っています。そのため、他国と比較しても非常に多くの感染者がいます。しかし、100万人当たりの数字は非常に小さいと言えます。死亡率を100万人当たりで見ますと53人で、ほかの国に比べるとかなり少ない数字です。そして回復率は78パーセント近くになります。死亡率ですと、世界平均は4パーセント台であるのに対して、インドは約1.68パーセント。感染者の人数は多いですが、それは人口が多いからです。そして、既に4600万件という膨大な数の検査を実施しています。検査数に応じて、感染症の検出数も増える可能性があるわけです。インドでは3つのワクチンが臨床試験中です。そのうちの2つは、インド製で臨床試験の第2段階です。3つ目はオックスフォード大学のワクチンで臨床試験の第3段階です。これらのワクチンが早い段階で承認されることを願っていますが、同時に非常に厳格な実施手順や決まりを守っています。 承認されれば、月に約9000万のワクチンを生産する能力があり、インド国内だけでなく、志を同じくする国や友人たちにもワクチンを提供できるようになるはずです。池上:このところ、インドと日本の間を自由に行き来ができないのが非常に残念です。早く本当に行き来ができるようになるといいなと思っております。ヴァルマ大使:私も同感です。新型コロナウイルス感染症拡大の初期にインドに帰国した日本在住のインド人は、すでに日本に戻り始めていますが、戻るためには一定の基準があり、それを満たすことが必要でした。同じことがインドに戻る日本人にも当てはまります。この2か月半の間に、航空機15便近くが両国を行き来しています。そのすべてが満席でした。両方向の便が満席です。乗客は、主にビジネス関係者です。観光客による移動はまだ行われていませんが、観光が始まれば、素晴らしいインドを皆さんにお見せできます。 * * * 新型コロナウイルスによって、世界は一時分断された。だが、その裏では次の時代、新たな世界秩序に向けた動きが着々と進んでいる。10年後、50年後、あるいは100年後の世界はどうなっているのか? 少なくともインドは、いまよりはるかに存在感のある国として国際社会の中心を担っているのではないだろうか。【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 欧米』がある。◆構成/川上康介、写真/五十嵐美弥
2020.10.14 07:00
NEWSポストセブン
外交の専門家である2人
池上彰×駐日インド大使「中国との緊張状態」をどう考えるか
 ジャーナリスト・池上彰氏は、これまで3回インドを訪ねたという。現在人口13億人を抱え、そう遠くない未来に中国を超えるといわれるインドは、今後の国際社会を占う上で欠くことのできない国といえる。しかし、私たち日本人にとってインドを近い国とは言い難い。首相は誰なのか? 仏教発祥の国でありながらなぜ国民のほとんどがヒンドゥー教徒なのか? そんな質問にきちんと答えられる日本人は少ないのではないだろうか。博覧強記で知られる池上氏にとってもインドは「不思議な国」だったという。「私が行ったのは、デリーとニューデリー。デリーの非常に古い町並みとニューデリーの発展する新しい景観が記憶に残っていますね。仏陀が悟りを開いたブッダガヤにも。それから、ダライ・ラマ14世に会うためにダラムサラにも行きました。ダラムサラはパキスタン国境に近くて、警備も非常に厳重でした。『発展するインド』と『周辺の国と緊張関係にあるインド』という2つの面があるんだなという印象を受けました。 本当にインドって、知れば知るほど不思議だなという印象があるんですね。もちろん知れば知るほど、理解は深まるのですが、理解が深まると同時に、さらに奥が深い国だなと感じます。そして、今とにかく人口が増えている。いずれ世界一の人口になる。19世紀はイギリスの世紀だった。20世紀はアメリカの世紀だった。21世紀は中国の世紀になるのか、はたまたインドの世紀になるのか。21世紀の前半はひょっとすると中国の世紀になるかもしれませんが、後半はインドの世紀になるかもしれない。躍動し、躍進する大国のことをもっともっと知る必要があるのかなと思っています」 9月15日、India & Japan: Future Forum(#日本インド未来会議)でジャーナリストの池上彰氏と駐日インド大使サンジェイ・クマール・ヴァルマ氏が対談を実施した。『池上彰の世界の見方 インド』を上梓したばかりの池上氏が、中国との関係やインドで猛威を奮っているコロナ禍など、気になるテーマで大使に迫った。 * * *池上:インドが輩出した人材は、世界中の多くの分野で活躍しています。大使はなぜ外交官を目指されたんですか?ヴァルマ大使:私が卒業した時、政府は最高の就職先でした。政府にはさまざまな省庁がありましたが、インドの外務省は最も名声があり、社会的からも(就職先として)とても望ましいと思われていました。ですから、当時21歳だった私は試験を受けたのです。この道に進もうと思いました。その後は出世競争でしたね。私はそれに参加し、現在に至りました。池上:大使のお立場からは、今の日本とインドの関係をどのようにご覧になっていらっしゃいますか?ヴァルマ大使:日本はイノベーションのすばらしい国だと思います。さまざまな新しい製品や製法をつくり出していると思います。私は科学技術と製法のイノベーションは、日本とインドがコラボレーションすべき2大分野だと考えています。たとえば、体が不自由な方はインドにも日本にもいます。つまり、日本とインドは同じ課題を共有しているわけです。このような分野で、革新的な新製品や製法を共同開発できるのではと思います。さらに、必要なものを共同で作り出すこともできるでしょう。本当にたくさん協力し合えることがあると思います。インドにはとても大きな市場があります。それから革新的な製品の実験をしたり、生産したりすることができます。共同で開発し作った製品が世界的な商品になる可能性があるのです。【インドと日本、両国にとって気になるのは、隣国である大国、中国の存在だろう。特にインドは、国境問題をめぐり40年以上にわたって中国との間に緊張状態が続いている】池上:最近気がかりなのは、インド国内でTikTokの使用を禁止したり、あるいは国境を巡って中国と紛争になったりと、中国との関係が非常に悪化していることです。人口13億を超える2つの大国が対立するということは世界平和にとってけっして好ましいことではないことではない。非常に懸念しているのですが、大使はどうお考えですか?ヴァルマ大使:中国とインドは長年、共存してきました。ですので二国間には、国際社会が心配するような問題はありません。両国間には紛争がありましたし、1962年には戦争も起こりました。両国の軍隊が戦闘に入った理由は、実際の土地に、これが国境であるという線引きがないからです。あるのは「実効支配線」として知られるものです。そしてこのラインを越えると、背中をたたかれて戻るように言われます。それで戻るということが、毎年200回以上起こっていたのです。 今回、衝突が起こりましたが、何が違うかというと、中国の人民解放軍が一方的に現状を変えようとしたこと。それが最大の問題でした。中国もインドも大きな軍事力を保持しています。愛国心から来るナショナリズムの熱狂があると、物事は間違った方向に進み始めることがあります。実際に20名の兵士が中国人民解放軍によって殺されました。これは受け入れがたいことです。国境線での出来事を脇に置いて、「すべてうまくいっています」などと言うことはできません。どんな関係も、さまざまな関係の積み重なりでできています。その積み重なりが、この5月から悪化しているということです。現段階では両国間での信頼のレベルをダウンさせるほどの悪化です。率直に言って、両国の関係が5月以前の時期よりも悪いことは確かです。それ以降、双方がさまざまなアクションを取る可能性がありました。 TikTokの問題は国境問題ではなく、プライバシーや安全性の問題です。このアプリは今インドでは使用できないようにしています。提供元にはすでに問題点を伝えました。セキュリティ問題に迅速に対処してもらえれば、私たちも今の状況を再考します。池上:中国と対立すると、それぞれの経済にとってもけっしていいことではないですよね?ヴァルマ大使:そうとも言えますが、良い面もあります。インドの立場から見た良い面は、中国からの輸入品を国産品に置き換える機会になるということです。この輸入品などの製品は、高度な技術が使われているわけではないので、インドでも簡単に生産することができます。今後、インドでも製造業が発展すると考えられます。「禍転じて福となす」という言葉のようなものです。ただ、中国との貿易は、互いに補完性があるので、続けていきます。池上:中国に対抗するという意味でも、日本とインドの関係をさらに強化しようという動きがありますね。やはり、インドとしても日本と関係を強化しようというのは、中国を意識しているという部分もあるのでしょうか?ヴァルマ大使:そうとは言えません。日本とインドの関係は、二国間の関係で成り立っています。「自由で開かれたインド太平洋」という政策は、今日に始まったことではありません。 インドと日本は戦略的関係、経済関係、金融関係を強化しようとしていますが、これは外交においては普通のことです。必ずしも中国がターゲットということではありません。しかし、中国が特定の分野で、国際的な慣行と相入れない国とみなされることはあるでしょう。例えば海上航行の自由などの面です。インドも日本も同じ国際規範に従っています。もし、国際法に従わない国があるとしたら、それは日印が協力して守っているものに反することは確かです。【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 欧米』がある。◆構成/川上康介、写真/五十嵐美弥
2020.10.10 07:00
NEWSポストセブン
トランプは大統領選をどう戦うのか(写真/AFP=時事)
米大統領選 池上彰氏は「オクトーバー・サプライズ」に注目
 11月3日に行われるアメリカ大統領選挙。トランプ大統領が再選を果たすか、あるいはバイデン候補が勝利して民主党が政権を取り戻すのか。黒人差別問題が争点のひとつになる中、ジャーナリストの池上彰氏は「オクトーバー・サプライズ」にも注目しているという。 * * * 今年、アメリカで「Black Lives Matter」の運動が盛り上がりました。ブラック・ライブズ・マターは、「黒人の命も大切だ」「黒人の命こそ大切だ」などと訳されます。 このニュースを見て、「アメリカはいまもこんなに黒人差別が残っているのか」と驚いた人も多いと思います。日本の中学校の英語の教科書には、黒人差別撤廃運動(公民権運動ともいいます)に取り組んだキング牧師の「私には夢がある」の演説の一部が掲載されています。この英文を読むことで、黒人差別と戦った人たちの歴史を知ることができますが、その後、アメリカに黒人のオバマ大統領が誕生したことで、差別はずいぶんなくなったと思っていたのではないでしょうか。 そんなことはなかったのですね。黒人の大統領が誕生するまでにはなりましたが、それは一部の話。黒人の間でも一部のエリートと多数の低所得階層に分断されています。 オバマ大統領についても、父親はケニア人留学生、母親は白人で、「黒人奴隷の子孫ではない」から、つまり「黒人でありすぎない」からこそ広く支持を勝ち得たという見方もあります。 2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の拡大によって、アメリカでも大勢の犠牲者が出ましたが、とりわけ黒人層に犠牲者が集中しています。ウイルスは全人類を平等に襲いますが、防いだり治療したりという対策では格差が出るのです。 今回の感染拡大で、アメリカでは「エッセンシャル・ワーカー」という言葉が広がりました。「欠かすことのできない仕事をしている労働者」という意味です。 医療従事者はもちろんですが、清掃や廃棄物処理などの仕事をしている人たちです。こういう仕事は、在宅勤務に切り替えることができません。黒人たちは、こうした仕事についている人が多く、公共交通機関で出勤します。労働現場も苛酷な環境が多く、感染しやすかったのです。感染してもすぐに医療機関にかかれる状況にない人もいて、重症化してから救急車で運び込まれ、手遅れになった人たちも多かったのです。 そんな状況が続いてきたからこそ、黒人が白人警察官に虐待を受けて亡くなった映像が抗議運動を引き起こしました。 実は、今回の事件は、SNSが黒人差別の実態を「見える化」したとも言えるでしょう。アメリカでは毎年多くの黒人が警官に射殺されています。黒人を撃った白人警察官は「相手が襲ってきたから自分を守るために発砲した」と説明することが多く、「警察官の発言だから」と、警察官の言い分が通っていたことが多かったのですが、今回は第三者がスマホで撮影し、虐待の様子がネットで拡散したことで、白人警察官の行状が明らかになりました。「黒人の命も大切だ」と多くの人が声を上げた理由がわかりますね。 今回は、抗議運動をしているのが黒人に限らないのが特徴です。集会に参加しているのは、黒人ばかりでなく白人やヒスパニック、アジア系などさまざまです。 黒人差別は、制度が変わっても続いていたのですが、ここへきて、ようやく人々の意識が変わってきたと言えるでしょう。「ブラック・ライブズ・マター」の運動が広がると、トランプ大統領は、黒人差別の実態が続いているアメリカの体制を批判したり改革したりする気配を見せないまま、デモや集会に参加している人たちを「過激派だ」と根拠なく批判しています。 こんなトランプ大統領、再選は難しいように思えるかもしれません。しかし、ことはそう単純ではありません。 トランプ大統領の発言を聞いて、「大統領の発言だから」と信じる人が多いのもアメリカの特徴と言えるでしょう。差別反対を訴える人を批判する人たちが出て来て、アメリカの分断が一段と進んでしまいました。 なぜ分断を進めるような大統領が選挙で当選したのかについては、先日出版した、『池上彰のまんがでわかる現代史 欧米』の漫画やコラムでご確認ください。これを読むと、大統領が分断を進めたとはいえ、そもそもアメリカ社会で分断が進んでいたからこそトランプ氏のような大統領が誕生したのだと見ることも可能でしょう。 さて、話を戻すと「ブラック・ライブズ・マター」運動について、トランプ大統領は「暴動はけしからん」と言い始め、「Law & Order(法と秩序)」という言葉を使い出しました。「Law & Order」って元々は、ニクソン大統領が使った言葉ですが、今ではアメリカのNBCテレビの人気刑事・法廷ドラマのタイトルとして有名です。トランプ大統領はそこから知ったんじゃないかというのは、単なる私のツッコミですが(笑)、トランプ大統領は、「法と秩序こそ大切なんだ」「法と秩序を守るのは俺なんだ」と言っているわけです。 今年の11月3日はアメリカ大統領選挙の日ですが、トランプ大統領の相手になるのが、民主党のバイデン候補。このバイデン候補について、トランプ大統領は「民主党は過激派に乗っ取られてしまって秩序を全く維持できなくなるんじゃないか」と言い出して、キャンペーンを始めました。 バイデン候補の支持率は変わっていませんが、トランプ大統領の支持率が今、じりじりと上がってきていて、このままいくとどうなるかわかりません。 バイデン陣営の副大統領候補は、カマラ・ハリスさんという黒人ですが、お父さんはジャマイカから来た人で、お母さんはインド人。奴隷の子孫ではないということで、意外に黒人からの支持が伸びていません。 さらにアメリカには「オクトーバー・サプライズ(October Surprise)」という言葉があります。直訳すると、「10月のびっくり」。前回の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン候補が国務長官時代、自分のプライベートなアカウントを使ってメールのやりとりをしていたことが問題になりました。FBIの捜査はいったん終わったのですが、10月の下旬になって、「また新しい証拠が出てきたので、もう一度捜査します」ということになりました。 そのとき、私はアメリカにいたのですが、風向きが変わったのがわかりました。「やっぱり、ヒラリーは悪いことをしていたのか」というわけです。そのころ、日本のメディアから「やっぱり、ヒラリーで決まりですよね?」という連絡があると、「いやわかりません。どっちになるか本当にわからないんです」と答えていました。 今年の10月には何が起きるのか。トランプ大統領が狙っているのは、新型コロナウイルスのワクチンです。10月末までに何としても間に合わせようと、ものすごい圧力をかけています。 ワクチンは、できたとしても少しずつ試してみて、副作用がないか、本当に抗体ができるのか時間をかけて調べないといけないのですが、それをすっ飛ばして一気にやろうとしています。10月末から多くの人に打てるようにして、「俺の実績だ」ということにして勝とうとしているというわけです。 何となく「バイデンで決まりだろう」と思っている人が多いと思うのですが、そうとばかりは言えません。 9月末からは大統領候補同士、あるいは副大統領候補同士のディベートも始まります。そして、オクトーバー・サプライズはあるのか。10月はアメリカのニュースに注目しましょう。 アメリカは、日本にとって大事な友好国。なくてはならない国ですが、米軍の駐留経費問題ひとつとっても、日本にとって厄介な存在でもあるのです。大統領選の報道を見ながら、アメリカについて考えてもらえればと思います【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 欧米』がある。
2020.09.30 07:00
NEWSポストセブン
インドのコロナ深刻化は「民主主義の弱点」 池上彰氏の分析
インドのコロナ深刻化は「民主主義の弱点」 池上彰氏の分析
 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界の景色はすっかり変わった。国により感染者数や死亡者の数にも大きな違いが出ているなかで、ジャーナリストの池上彰氏は「こういう時こそ、その国の民主主義の度合いや日頃の医療体制の優劣がはっきり出てきます」と指摘する。 * * * 新型コロナウイルスについて、独裁的な力で都市を封鎖して感染者数を抑え込む中国のような国もあれば、対策が遅れ、貧富の格差から人種によって死亡率に差が出たアメリカのような国もあります。 中国に関していえば、感染拡大を防ぐためには国民の行動にある程度の規制をかける必要性は理解できても、武漢という、人口規模で東京都に匹敵する大都市をいきなり封鎖してしまうという手法には嫌悪感を抱く人も多いことでしょう。 その中国と何かにつけて比較されるのがインドです。私が6月30日に上梓した『池上彰の世界の見方 インド』で詳述していますが、13億人をはるかに超える人口を抱えたインドは、人口増加率を見ると10年以内に中国を追い抜く勢いです。しかし、感染防止の観点からいうと、中国より立ち遅れ、感染者数は爆発的に増えてしまいました。 インドは「世界最大の民主主義国」と言われます。しかしそれゆえに中国のような強権的な手法はとれませんでした。今、感染拡大対策が後手に回ったのではないかと批判されています。これは民主主義の弱点かも知れません。だからといって中国を見習え、とはならないでしょう。民主主義とは何か。考え込んだ人もいるのではないでしょうか。 それと共に明らかになったのは、インドの貧富の差です。今回は、人口が密集しているスラム街で感染者が拡大しています。衛生状態も、けっして良好とはいえないインドの弱点が露呈しました。 インドでは家にトイレがなかったり、学校に女子トイレがなかったりという状態が続いてきました。2015年にユニセフが行った調査では、13億を優に超えるインドの人口のうち、5億人以上が田畑など野外で用を足していました。そこでインドのモディ政権は2014年に「野外排せつゼロ宣言」を行って5年がかりでトイレの設置を進めます。2019年にはトイレ普及運動の達成を宣言しました。ただ、一定の成果はもちろんあったと思いますが、専門家からは、まだ数百万人単位の人々がトイレなしで生活していることや、古くからの習慣のせいで新しく設置されたトイレが使用されていないことなどが指摘されています。こういう背景もコロナウイルス感染拡大の一因になったと思われます。 インドといえば「カースト制度」を思い浮かべる方もいるでしょう。カースト制度についての詳しい内容は、前出の『池上彰の世界の見方 インド』を読んでいただくとして、実はカースト制度は感染症と関係があるという説があることを、知りました。  新型コロナウイルスの感染に見られるように、過去にも人類は数々の感染症と戦ってきました。感染拡大を防止するには、他人との距離をとること。いわゆる「ソーシャル・ディスタンス」(社会的距離)を保つ必要がありますが、過去にも感染症が広がった時には距離をとってきました。これが、「異なる集団とは別々の生活をする」という習慣に発展していったというのです。 感染症の原因が不明だった時代には、そういった行動で感染を防いでいたのなら、それはそれで人々の知恵だったのか知れません。 また今回のコロナ禍は、新たな宗教紛争をもたらしています。感染拡大が始まった初期にイスラム教徒たちがモスクで集団礼拝をしていたことで感染が拡大したのではないかと、ヒンドゥー教徒たちが不満を持っているのです。 インドというとヒンドゥー教徒の国というイメージを持っている人も多いでしょうが、実はイスラム教徒も多数暮らしています。前述のモディ首相はヒンドゥー教徒。ヒンドゥー教徒優先政策を採用したことで、国内でさまざまな社会的摩擦を生んでいます。とりわけ未知のウイルスの感染拡大が続くと、人々は不安に陥ります。こういうときに日頃の差別意識が表面化しやすいのです。 インドが抱えるさまざまな矛盾が一気に噴き出したコロナ禍ですが、とはいえ、これでインドという国の勢いが削がれてしまうわけではありません。インドは、とてつもないパワーを備えた国だからです。ひとつには人口の多いこと。「人口は力なり」です。人口で中国を追い抜くインドは有利です。「21世紀はインドの世紀」となる可能性が高いのです。 そして、少しでも豊かな生活を送りたいというハングリー精神。インド人と話をしていると、そのアグレッシブさに戸惑うこともありますが、だからこそインドは発展すると思うのです。そんなインドについて、今後も注目していきましょう。【プロフィール】いけがみ・あきら(ジャーナリスト)/1950年長野生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部記者などを経て、1994年4月から11年間にわたり『週刊こどもニュース』のお父さん役を務め、わかりやすい解説で人気を集める。2005年にNHKを退職し、フリージャーナリストに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。愛知学院大学、立教大学、信州大学、日本大学、順天堂大学、東京大学、関西学院大学などでも講義する。主な著書に『伝える力』『知らないと恥をかく世界の大問題』など。近著に『池上彰の世界の見方 インド』『池上彰のまんがでわかる現代史 東アジア』がある。
2020.07.12 07:00
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