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全巻80万円の春画集 「ありのまま」で累計1万部の大ヒット

 春画の発掘と普及に尽力した孤高の研究者、白倉敬彦(しらくらよしひこ)氏がこの世を去ったのは10月4日だった。今春に小細胞肺がんが発覚し、闘病生活を続けていたが、無念にも力尽きた。享年75。

 白倉氏は40年、北海道岩見沢の農園主の三男として生まれた。幼い頃に結核を患い、長い闘病生活を経験している。

 早大文学部仏文科に進んだが、結核療養のために中退を余儀なくされた。妻の和子さんは6歳下、仏文科の後輩だった。2人が結婚したのは白倉氏28歳、和子さん22歳の時だ。和子夫人が思い出を語る。

「彼は仏文学研究会のリーダー的存在。ボードレールや堀辰雄に傾倒していました。彼は自分の信念に忠実な人で、大学を中退したのも、意に添わない教授がいて衝突したからなんです」

 大学中退後、白倉氏は語学教材の出版社に勤めたのち、詩人の安東次男や銅版画家の駒井哲郎らと知遇を得る。これが機縁となり、美術出版社「青地社」(1969年)、「エディション・エパーヴ」(1973年)などを興した。その後、1986年から「インディペンデント・エディター」を自称し、フリーの編集者として辣腕を振るった。

 春画と出逢ったのは、1990年から刊行された『人間の美術』全10巻(梅原猛監修・執筆)の編集制作に参画した時のこと。

 同書の編集を担当した学研パブリッシングの山本尚幸氏は、「この仕事が白倉さんの大きな転機となった」と指摘する。

「シリーズの浮世絵編では、春画の局部がトリミングされました。白倉さんは、『浮世絵というジャンルの半分は春画。当時の男女の機微や江戸文化が読み取れる貴重な資料なのにこういう扱いはおかしい』と力説していました」

 白倉氏の想いが結実したのは1992年に学研から出版された『浮世絵秘蔵名品集』だった。初めて無修正の春画集が出版された。局部や交接場面がありのままに掲載された同書が、いかに革命的だったか―学研の山本氏が振り返る。

「挑戦ではありましたが、弊社の創業者もやるだけの価値があると後押ししてくれました」

 だが当局から猥褻物と認定されてしまえば、元も子もない。

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