国際情報

アメリカがイエメンよりイスラム国を優先する2つの理由とは

 自称「イスラム国」による日本人人質殺害事件の検証において、語られていない側面がある。それは、アメリカの関与だ。米国務省報道官は「日本はテロリストと妥協するべきではない」と言明したが、その理由は何か。

 元外務省国際情報局長で駐イラン大使も務めた孫崎享氏が分析する。

 * * *
 対米追随型政治家の典型とも言える安倍首相がアメリカの指示に従うのは不思議でも何でもないが、ではなぜ、アメリカは交渉に応じるなと強要したのか。その謎を解く鍵がイエメンにある。

 アフガニスタンを追い出されたアルカイダが逃げ込んだ先が、イエメンとパキスタンだ。1月7日にフランスの新聞社がテロ攻撃を受けたが、犯行声明はイエメンのアルカイダ系組織から出ている。

 現在、イエメンは政情が極めて不安定で、この2月にシーア派系ザイド派の民兵が大統領府を制圧して政権を掌握し、すでに米英仏の大使館は閉鎖されている。イエメンはいまやアルカイダの一大拠点となり、ザイド派支持者らは「アメリカに死を」と敵意を露わにしている。

 一方のイスラム国は、実は内向きの組織で、イラクやシリアの異宗派や異教徒を虐殺しているが、もとはそれほどアメリカを敵視しておらず、欧米でテロも起こしていなかった。有志国軍の空爆が始まったため、その報復で米英の人質を殺害し始めただけだ。

 つまり、「テロとの戦い」という意味では、イエメンのアルカイダのほうがイスラム国よりも掃討対象としての優先順位は高いはずだ。ところが、アメリカはイエメンでは無人機攻撃はしているが、空爆はしていない。一方のイスラム国には、すでに地上軍の派遣を決定している。

 なぜアメリカは、イエメンよりイスラム国を優先するのかというと、理由は二つある。

 一つは、イスラム国がイスラエルの隣に存在し、脅威となっていることだ。イスラエルの安全保障は、アメリカの安全保障政策の核である。

 もう一つの理由は、中東の大国サウジアラビアの多くの部族とイエメンが深いつながりをもっているため、うかつに手を出せばサウジの反発を招くからである。

 アメリカとしては、イエメンから目をそらさせる一方で、イスラム国掃討に世界中の国から支持を集め、戦闘に巻き込みたい。

 対して安倍首相としては、イスラム国の残虐性が浮き彫りになったほうが、テロとの戦いにコミットしやすくなり、集団的自衛権の行使容認や自衛隊の海外派遣などで都合がいい。人質見殺しにおいて、両者の思惑が合致したのである。

※SAPIO2015年4月号

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