西郷はインタビュー中、森繁を親しみと敬意を込めて「おやじ」と呼んでいた。

「芝居については何も教えてくれません。見て覚えるしかない。それでも同じ舞台の板に立っておやじの背中から客席を感じることができることは凄いことだと思いながら演じてきました。

 おやじが素晴らしいのは、芝居に対する姿勢。引っ込みが上手でね。『役者はとにかく品がなきゃダメだ。引っ込まないでしつこく出続けることはするな』と。手(拍手)が来るまで引っ込まない方もいるんですよ。でも、やることをやったらサッと引っ込んで、その後で観客から『いいね』と思われるくらいがいいということです。

 それから、黙っている時が素敵なんです。セリフとセリフの間のちょっとした間合いが絶妙でした。普通は計ったように演じるものですが、おやじは計算しているように見えない。ほとんど息を吸わずに吐いていたんじゃないですかね。間合いで息を吐くと、憂いが出るんです。

 僕に一つだけ言ってくれたのは、『輝はカミソリの刃のような芝居をするよな。それはいいけど、いつまでもそれだけじゃダメだ。ポキッと折れてしまう。そうじゃなくて、しなやかな柳のような、それでいて温かい心を出せるような、そういう芝居をやれるようにならないと』ということでした。そういえば、森繁久彌という役者は、そういう芝居をしているんですよね。

『音楽をやってよかったな』と言われたこともあります。『役者しかやらなかった人間とはリズムが違うんだ』と。そこは自分では分からないんですが」

■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年8月21・28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

快進撃が続く大の里(時事通信フォト)
《史上最速Vへ》大の里、来場所で“特例の大関獲り”の可能性 「三役で3場所33勝」は満たさずも、“3場所前は平幕”で昇進した照ノ富士の前例あり
週刊ポスト
家族で食事を楽しんだ石原良純
石原良純「超高級イタリアン」で華麗なる一族ディナー「叩いてもホコリが出ない」視聴率男が貫く家族愛
女性セブン
グラビア撮影に初挑戦の清本美波
新人美女プロゴルファー清本美波が初グラビアに挑戦! ふだんの「韓国風メイク」よりおとなしめのメイクに困惑
NEWSポストセブン
【あと1敗で八冠陥落】藤井聡太八冠、「不調の原因はチェス」説 息抜きのつもりが没頭しすぎ? 「歯列矯正が影響」説も浮上
【あと1敗で八冠陥落】藤井聡太八冠、「不調の原因はチェス」説 息抜きのつもりが没頭しすぎ? 「歯列矯正が影響」説も浮上
女性セブン
小学校の運動会に変化が
小学校の運動会で「紅組・白組を廃止」の動き “勝ち負けをつけない”方針で、徒競走も「去年の自分に勝つ」 応援は「フレー! フレー! 自分」に
NEWSポストセブン
歌手の一青窈を目撃
【圧巻の美脚】一青窈、路上で映える「ショーパン姿」歌手だけじゃない「演技力もすごい」なマルチスタイル
NEWSポストセブン
一時は食欲不振で食事もままならなかったという(4月、東京・清瀬市。時事通信フォト)
【紀子さまの義妹】下着ブランドオーナーが不妊治療について積極的に発信 センシティブな話題に宮内庁内では賛否も
女性セブン
死亡が確認されたシャニさん(SNSより)
《暴徒に唾を吐きかけられ…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の母親が“残虐動画の拡散”を意義深く感じた「悲しい理由」
NEWSポストセブン
9月の誕生日で成年を迎えられる(4月、東京・町田市。写真/JMPA)
【悠仁さまの大学進学】幼稚園と高校は“別枠”で合格、受験競争を勝ち抜いた経験はゼロ 紀子さまが切望する「東京大学」は推薦枠拡大を検討中
女性セブン
5月場所は客席も活況だという
大相撲5月場所 溜席の着物美人は「本場所のたびに着物を新調」と明かす 注目集めた「アラブの石油王」スタイルの観客との接点は?
NEWSポストセブン
杉咲花と若葉竜也に熱愛が発覚
【初ロマンススクープ】杉咲花が若葉竜也と交際!自宅でお泊り 『アンメット』での共演を機に距離縮まる
女性セブン
アメリカ・ロサンゼルスの裁判所前で、報道陣に囲まれる米大リーグ・大谷翔平選手の元通訳、水原一平被告(EPA=時事)
《愛犬家の間で命名問題がぼっ発》仲良くしてほしくて「翔平」「一平」とつけたが、飼い主から「一平の名前どうしよう…」「イッちゃんに改名」
NEWSポストセブン