蛇腹道の長い紅葉のトンネルをくぐり抜けると、高野山の中心・壇上伽藍にたどり着く


 高野山には人生を蘇らせる儀式も用意されている。春秋の二期に伽藍の金堂で行なわれる、結縁灌頂がそれである。希望者はだれでも受けられる。

 目隠しされて、燈明だけが淡く輝く堂内に僧に手を引かれて導かれ、両手に挟んだ樒(しきみ)の葉を曼荼羅の上に落として、縁のある仏・菩薩と結ばれる。どんなに悩み苦しんでいても、スッパリと新しい人生を始める端緒となる。

 高野山は山の正倉院ともいわれる。古色豊かな仏像や仏具、それに貴重な文書も数多く所蔵されている。湿気を含んだ快い霊気が肌を刺す。高山特有の深紅の紅葉に囲まれ、声明や梵鐘の神秘的な響きが幽かに聞こえてくる。無限の空間に包まれて、永遠の時間が知らずに過ぎてゆく。頭で歴史の重みに気付き、五感をもって宇宙とつながり、心はいつにない充実感を味わいつつ、仏たちと別れを告げる。高野山はこんな山なのである。

撮影■永坂嘉光(ながさか・よしみつ):1948年、和歌山県高野山生まれ。1970年頃から高野山の撮影を開始。密教の源流を探るためアジア各地の取材を重ね、宗教と文化をテーマにした作品が国内外で高い評価を得ている。現在は大阪芸術大学教授。写真集『空海 千二百年の輝き』が発売中。

※週刊ポスト2015年10月30日号

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