順天堂大学医学部免疫学特任教授で、『“健康常識”はウソだらけ』(WAC)などの著書がある奥村康氏は、こんな研究成果を披露する。
「いつまでも健康で暮らせるか、それとも病気になりやすいかは、体の中の免疫力によって見分けることができ、それは精神状態の影響を大きく受けるといっても過言ではありません。過度なストレスを抱えて暗く陰鬱になると、免疫力が下がって病気を引き起こすウィルスや細胞をやっつけることができなくなります。
ただ、ストレスにも2種類あり、例えば上司に怒られて塞ぎ込むネガティブなストレスと、『なにくそ!』と立ち向かうポジティブなストレスです。後者は逆に免疫力を活性化させる“いいストレス”。真面目すぎると寿命を縮めてしまうことにもなるので、あまり気負わず無理せず物事を前向きに捉える習慣を身につけたいところです」
奥村氏が度々例に出すのが“フィンランド症候群”と呼ばれる調査だ。
1970年代にフィンランド政府が40~45歳男性1200人を対象にグループ分けし、片方は健康診断や運動指導を徹底し、アルコールやたばこ、塩分などの摂取を厳しく制限した。そして、もう一方のグループには好きな物を食べさせ、飲酒や喫煙も自由にさせたところ、15年後の結果は、健康管理をしっかりしたグループのほうが、がんや心臓血管系の病気、自殺まで多かったというのだ。
「酒もたばこも好きなものを我慢しすぎるとストレスが溜まって免疫力を低下させてしまうことの表れです。体の健康管理と同じく、心の健康管理も過激にやり過ぎるとかえってストレスに繫がり、病気を引き起こす。いわゆる“健康病”には注意したほうがいいでしょう」(奥村氏)
12月から始まる「心の健康診断」も、メンタル不調者をあぶり出すことばかりが主目的になってしまえば、健康長寿国とは程遠い結果を招きかねない。