「HER2陰性の乳がんでは、分子標的薬による治療の効果がないとされます。つまり、ホルモン受容体陰性で、HER2陰性の『トリプルネガティブ』では、ホルモン療法も分子標的薬療法も効果が期待できないため、治療法としては抗がん剤治療しかない。進行度も早く、予後が悪く、肺・肝臓・骨・脳などへの遠隔転移が多く認められ、命にかかわります」(南雲院長)

 2014年5月7日、精密検査の結果、奈緒さんの乳がんはこの「トリプルネガティブ」という診断結果だった。その時妊娠15週目頃だった奈緒さん。35才未満の若い女性の乳がん患者は、厚労省の発表によれば、乳がん患者全体の3~6%程度と少なく、「妊娠中の乳がん患者は1%以下」とさらに少ない。聖路加国際病院・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内英子医師が言う。

「妊娠期に乳がんに罹患する女性は妊娠している女性の3000人に1人といわれているんですが、最近は増えていく傾向にあるかもしれません。昔は20代や30代前半で出産する女性が多かったのが、今は女性の社会進出もあり、30代後半から40代前半で出産する女性も珍しくなくなり、高齢出産されるかたが増えています。そのようななかで乳がんの罹患年齢のピークである40代と重なることもあります」

◆見つかった亡き妻の日記

 乳がんは、早期に発見して適切な治療を受ければ、より高い確率で完全に治すことができるがんでもある。

 1月に国立がん研究センターは、全国がん(成人病)センター協議会の協力を得て初めて集計したすべてのがんの10年生存率を発表した。大腸や胃が50%以上70%未満、食道が29.7%だったなかで、乳がんの10年生存率は80.4%にものぼった。

 しかし奈緒さんの診断結果は、清水アナを絶望の淵へ追いやった。奈緒さんの乳がんは「トリプルネガティブ」であるばかりでなく、増殖が早いタイプで、手術をしても、現時点で、再発率50%ということがわかったのだ。当時夫妻の相談にのっていた、日本で最初にオープンした出生前診断の専門クリニック『クリフム夫(ぷう)律子マタニティクリニック臨床胎児医学研究所』の夫律子院長が振りかえる。

「健ちゃんは、ひとつひとつの治療法にしても、自分でトコトン調べるんですよ。徹底的に調べて、それでそれを今度は自分の目で確認するんです。その治療法をやられている一番手の先生に会いに行かれたりして、キチッとしたことを自分で確認するんです。妻が重い病気だったら仕事にかこつけて逃げていく男性も少なからずいるのが現実です。でも、健ちゃんは忙しい仕事をやりながら、奈緒ちゃんとも病気とも正面から向き合っていました」

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