田原:最近、テレビは何かというとコンプライアンスの問題を持ち出してきますよね。コンプライアンスは法律を守る遵法精神だと解釈されてるけど、実態は違います。クレームのことなんですよ。
昔はクレームが電話で来たので、担当ディレクターが、もう二度としませんと謝るだけでことが済んだ。今のクレームはネットで来るでしょう。そうすると管理部門や何かに拡散されちゃうわけだ。すると、大騒ぎになって、スポンサーのところまでいっちゃう。だから、クレームの来ない番組、無難な番組をつくろうみたいな感じになってきている。
小林:だからさ、やっぱり組織人は弱いんですよ。田原さんの場合は、田原さんや周りのブレーンが強かったんですよ。他のところはそうはなってないじゃない。
田原:それはそうかもしれないけど、僕が一番の問題だと思ってるのはね、テレビマンたちが、昔ほど番組づくりをおもしろがってないこと。仕事だと思ってるんじゃないかな。職人気質じゃない、サラリーマンになってきてる。
小林:それはあるな。闘うの、大変だから。わしも名誉毀損で訴えられて、最高裁で弁論したからな。わしの言論を萎縮させないでくれ、自由に描かせてくれと訴えて逆転勝訴になった。
田原:でも、おもしろいじゃない。小林さんも、名誉毀損で訴えられても、半ばおもしろがってるでしょう。
小林:そうね……(笑)。そういう意味でも、喧嘩し続けないとね。
【プロフィール】田原総一朗:1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所を経て、1964年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。主な著書に『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』など。
【プロフィール】小林よしのり:1953年、福岡県生まれ。1976年、大学在学中に描いたデビュー作『東大一直線』が大ヒット。1992年、「ゴーマニズム宣言」の連載スタート。以後、「ゴー宣」本編のみならず『戦争論』『靖國論』『昭和天皇論』といったスペシャル版もベストセラーに。執筆の傍ら、『朝まで生テレビ!』に出演し、討論を盛り上げた。
※SAPIO2016年5月号