「感染すると、3週間ほどの潜伏期間を経て、感染した場所に潰瘍のようなものができ、近くのリンパ節が硬く腫れますが、どちらも痛くもかゆくもなく、自覚症状がほとんどありません。潜伏期間はセックスしても感染する可能性は低いが、いったん潰瘍ができると強烈な菌を排出し、相手の性器やその周辺の傷のある部分と接触するとそこから感染します」
この“第1期”が、最も危険な時期で、知らず知らずのうちに感染源になっている。
潰瘍やリンパ節の腫れは、治療をしなくても、3週間くらいで消失してしまい、唇などわかりやすいところにできても、腫れが消えてしまえば、『何だったんだろう』と思う程度で、その場をやり過ごしてしまう。
「その消えた菌はどこへ行くかというと、血液の中に入り込み、全身を巡ります。そして4~9週間の潜伏期間の後、今度は手のひらから足の裏など、全身に発疹という形で表れます」(大西さん)
これが“第2期”で、真紅の“薔薇疹”に驚き、発熱や疲労感が伴うこともある。感染者があわてて病院に駆け込んでくるのがこの時期だ。しかし、ほとんどの患者がこの段階で“梅毒”と診断されるかというとそうではない。前出の釘島さんは語る。
「全身の湿疹を診て、梅毒と診断できない医師も中にはいます。まだまだ症例が少ないですから、医師によってはのみ慣れない薬による“薬疹”と誤診するケースもある、と聞きます」
当然、治らない。さらに怖いのはここからだ。数週間から、長い場合は数か月の後、何の治療も施さないにもかかわらず、“薔薇疹”は消えてしまい、その後、10年から30年の長い潜伏期間に入るのだ。
潜伏している間は、誰かにうつす危険はないが、本人の心臓や血管、ときには脳が少しずつ侵されていき、なかには錯乱したり、麻痺したり、痴呆になるケースもある。万一、妊婦が感染したり、梅毒患者が妊娠すると、流産や死産のリスクも高くなる。
※女性セブン2016年5月5日号