人間の本質は、怠惰である──古今東西、よくいわれているように、勉強しないでいいのなら、仕事をしないで生きていけるのなら、何も考えず遊んで暮らしたいという人が多いだろう。まして70代だ。どんなに学びたいとの思いがあろうとも、新しいことを覚えるのは至難の業だったことだろう。日々、記憶力の低下と闘わなければならなかったはずだ。シヅ子さんはどのようにそれらのことと向き合ったのか?
「もう反復ですよ。繰り返し勉強するしかない。数学とかは昔のことを思い出せばできるけど、英語とか記憶せんとあかんもんはもう大変でした。スペルを覚えるのも大変。ABCだけじゃなくて、アイウエオ(発音)もあるやろ。両方やから、もう大変やった。
今はなんて書いているかちょっとはわかるようになった。今までは、AとかBとかっていうことぐらいしかわからんかったけど、“SAGA”が“佐賀”っていうのはわかる。“GOOD MORNING”が“おはよう”とかね。
いつもね、自宅にある洋裁作業所で、3~4時間、何度もスペルを書いたりしとった。英語は私の妹に習ったりもしよったけん。でも、面白いけん。21才の時の成績より、今回の成績がいいけん。アハハハハ」(シヅ子さん)
彼女の成績表には、グランドゴルフの実技を専攻した【体育III】をはじめ「5」が目立つ。でも、当然ながら苦労もあったようだ。
「【保健II】がちょっとね。わからんかったから市役所の保健課に聞きに行ったんよ。わからんかったら誰にでも聞くわけさ。わからんとば、わかったふうにしても同じじゃ。そがんわからんやったら、みんなに聞いてみんなに助けてもらうっちゅう感じ。それで成績が『5』。
【科学と人間生活】も、長男が化学系の仕事ばしよってん、教えてもらって、『5』。ただパソコンは今もできん。でも、授業の時は一生懸命したわけさ。隣に、孫くらいの男の子がね、“ばあちゃんができんことは教えんとね”って、教えてくれた。そういうふうにして【社会と情報】の単位は取った。私ひとりじゃ、なんもできんけん」(シヅ子さん)
※女性セブン2016年5月12・19日号