永:お盆には日本じゅうで迎え火と送り火を焚き、花を供え、盆踊りのやぐらを組むけど、あれは、まさにあの世から見えるように「ここがあなたのふるさとですよ」と教えてあげることなんです。
矢崎:永さんは、ぼくと一緒に歩いていても、雑踏の中で誰かに“会っちゃう”んだよね。おれにはわからないけど、「今、渥美ちゃん(渥美清さん、享年68)に会ったよ」とか。すごく不思議…。
永:霊魂とか怪奇現象ではありません。ぼくがパーキンソン症候群という、幻覚を伴いがちな病気だからですよ。
でも、その人とそっくりな人が地球上に何人かいるっていうじゃない。だからみんな、その人と会ったと思えばいいの。そこで、そっくりな人だなと思うか、当人だと思うかは心の持ち方しだいで…。
矢崎:それって、普段からの心がけ?
永:そんな立派なものじゃなくて、今、あの人がいたらどんな話をするだろう、何をしたいと思っているだろうか…そう考えているだけだよ。渥美ちゃんの場合も、彼がいたら何を一緒に食べようかな、と考えている。その思いが、見えることにつながるんだと思っている。
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著書『永六輔のお話し供養』(小学館)で、永さんは親しかった亡き8人の著名人との思い出を綴っている。最初に登場するのは渥美清さん(享年68)。永さんは、2011年の東日本大震災の被災地を訪ね歩いたとき、瓦礫の山と化した現地で、渥美さんを見かけたという。そして、親しかったゆえに、それまでどこにも書いたことがなかったという渥美さんのエピソードを紹介し、「下町の品性」を備えていた人だったと偲んでいる。
矢崎泰久(やざき・やすひさ):1933年東京生まれ。日本経済新聞の記者などを経て、『話の特集』(1995年休刊)を創刊し編集長を務める。イラストレーターの和田誠氏、写真家の立木義浩氏などの多才を起用し日本の雑誌文化に大きな影響を与えた。現在もジャーナリストとして活躍し、『生き方、六輔の。』(飛鳥新社)など永氏との共著も多い。