一時期、『GTO』という熱血教師のドラマが流行ったことがありましたが、確かにおもしろかった。生徒は「あんな先生がいてくれたら……」と思うかもしれませんが、私ら教師からすれば「こんな生徒ばっかりだったら楽なのにな」と思いますよね。話せばわかってくれるし、まず、どの子も学校に来てますもんね。実際の教育現場は、もっと過酷です。退学覚悟で学校に来なくなってしまった生徒は、そこから更生させるのはなかなか難しい。
体罰を悪だと決めつけると、先生もどんどん萎縮していきます。その先にあるのは、問題のある子のスポイルですよ。そういう子が街でタバコを吸っていても、見て見ない振りをするようになる。タバコぐらいなら殴ってでもやめさせれば、まだ間に合うのにね。
体罰はないにこしたことはない。だからといって、何が何でも禁止にすべきではないですよ。これ以上言うことを聞かなかったら叩くよ、という部分を残しておかないと抑止力にならないですもん。それに、叩いてもこの先生は本気なんだと伝われば、生徒は理解してくれます。優しさや思いやり、つまりは“母性”に溢れる世の中だからこそ、時には“父性”をしっかりと見せなければならない。体罰よりも残酷なのは、こいつはダメだと簡単にあきらめることじゃないですか。
【PROFILE】野々村直通(ののむら・なおみち)/1951年、島根県生まれ。広島大学教育学部卒。島根県の開星高校野球部を監督として9回、甲子園に導く。美術教師を務めていたことから「山陰のピカソ」の異名を持つ。2012年に定年退職。著書に『やくざ監督と呼ばれて』など。
●取材・構成 /中村計(ノンフィクションライター)
※SAPIO2016年11月号