さらには東京創業の地である銀座6丁目で建て替え中の「東京銀座朝日ビルディング」(仮称)は今年2月に着工。来年秋に完成後には日本初進出の高級ホテル「ハイアット・セントリック」が入居予定で、これまた2020東京五輪大会の訪日外国人観光客を当て込んだ大型ビジネスだ。
“本業”の社員に窮状を訴える文書が配られる一方で不動産ビジネスの拡大には勢いが感じられる。渡辺社長は今年の年初挨拶で、「(2020年度までに)単体の不動産事業で収入200億円、営業利益率30%を目指す」と意気込みを語っている。
変貌していく朝日新聞の行く末を案ずるのは現役社員だけでない。OBで現在もジャーナリストとして活動する前川惠司氏はこう危惧する。
「朝日新聞は民間企業だから利益は必要だろうが、信頼を回復するには読者に対して公平・公正な記事を提供することに尽きる。経営陣が目の前の業績の話ばかりを記者にしていたら士気に影響して良い記事なんて書けなくなりますよ」
社外秘文書を配布したことや、今後の人件費削減策などについて同社に問うと、
「既存事業の足固めと成長事業の創出を柱とした中期経営計画2020を今年1月に発表し、ジャーナリズムの担い手としての責務を果たすべく、達成に向けて取り組んでいます。社員向けに経営状況を説明する機会もありますが、詳細については回答を控えさせていただきます」(広報部)
と返ってきた。
しかし、この状況はひとり朝日新聞の問題にとどまらない。情報を印刷媒体とデジタルでいかに配信し、さらに読者に有益な情報を取材できる体制を維持してゆくか。朝日新聞のこれからに注目したい。
※週刊ポスト2016年10月28日号