トリハロメタンとは、都市排水などの中にある有機物と消毒用の塩素が反応してできる有害物質の1つで、発がん性が指摘されている。トリハロメタンが「基準値超え」でありながら、その水が活魚水槽にじゃぶじゃぶと注ぎ込まれていたということだ。消費者の健康に影響はないのだろうか。都中央卸売市場の担当者が答える。
「海水をろ過する設備では、砂による上澄みの除去と塩素消毒を施しています。(基準値超えの数値が出た)8月は海水温が高いため大腸菌なども繁殖しやすく、それらの有機物を消毒するほど、トリハロメタンの値が高くなってしまう」
確かに前年の2014年8月の検査でも基準値超過ギリギリの0.096mg/リットルが検出されている。
「基準値を下回るのが望ましいが、暑い時期の衛生面を考えれば消毒用の塩素を大幅に減らすことも難しい。だからこそ清掃用水と活魚用水に限った使用を卸業者や仲卸業者にはお願いしている」(同前)
ここで知っておくべきは「基準値」とは何かだ。築地のろ過海水に適用されている飲用水基準は「生涯にわたって飲み続けても健康に影響を生じない水準」(同前)で設定されている。確かに築地のろ過海水は、ごくごく飲むわけでもない。食品の加工に直接用いなければ、「基準値超え」に目くじらを立てる必要はない、という判断がなされている。
一方で、新聞やテレビは、飲みも触りもしない豊洲の地下水が「基準値超えかどうか」で大騒ぎしてきた。活魚が泳ぐ「水槽の水」の「基準値超え」には全く関心を払ってこなかったにもかかわらずだ。
そもそも「基準値」には、飲用水の基準とは別に工場が下水に流す際の「排水基準」があり、排水基準の場合、飲用水基準より10~100倍の濃度まで許容されている。都庁OBは「その違いがいまの報道では理解されていない」と心配する。
「9月末に豊洲の地下水モニタリングでベンゼンとヒ素が『基準値超え』と報じられたが、これはハードルが高い飲用水基準を超えたということです。排水基準から見れば全く問題がない値でした。
建物下でもない場所の地下水で、市場の仲卸業者ですら触れもしない水なのに“生涯にわたって飲み続けて大丈夫か”というレベルの基準でチェックがなされていることをどれだけの人がわかっているのか」
※週刊ポスト2016年11月18日号