とはいえ、安いだけで人は集まらない。今でこそ年間100万~120万人が訪れるが、26年前に木下氏が4代目を継いだ時、同社の負債額は約10億円。税理士から採算の取れないサーカスを手放すよう助言されたが、「絶対やめない、粘ってみせる」とサーカス経営を続けることにこだわった。
どうやって返済したのか──木下氏は多くを語らないが、不屈の精神でどんな時も地道に粘ってきたことだけは確かなようだ。
「テントの素材や高さなど、日本では異例づくしで実現するのに苦労しましたが、無理だといわれたからといって諦めませんでした。
人気者の象も、最初は個人での輸入は不可能だといわれました。動物園経由でも難しいというので、会社の本社がある岡山県の県知事に友好のシンボルとして3か月だけ招聘してもらえるよう、タイ政府と交渉していただいた。
船の輸送費だけで、1985年当時で片道500万円。大切に世話をして、大切に返しました。それを何度も続けているうちに、3か月の招聘が6か月になり、1年、1年半と延長してもらいました。現在はラオスからの輸入ですが、その積み重ねがあって今も象のショーができるのです」
取材・文■渡部美也 撮影■太田真三
※週刊ポスト2016年11月18日号