「外交」についても、彼は何の経験も知識もない。トランプの外交無知は選挙期間中に大きな話題となったが、おそらく、多くのアメリカの若者が血を流したベトナムがどこにあるかもわからないのではないか。
トランプは「中国にアメリカ人の雇用を奪われている」と叫んで、「就任初日に、中国を為替操作国に認定するよう指示する」ことを打ち出している。さらに、45%もの輸入関税を課すと言及している。
「メキシコの資金負担でメキシコ国境に壁を作る」という馬鹿げた公約は実現不可能だろうが、そのメキシコ製品にも35%の輸入関税を課すと言っている。そうやって世界中を敵に回すのがトランプ流の「外交」だというから笑わせる。
新聞などではプーチンと良好な関係を築いているから米露関係が進展すると言っているが、私はそうは思わない。プーチンがこれまでやったことを見ればわかるが、彼は本質的に戦争したくて仕方がない男なのだ。ロシアが経済的に逼迫している今、プーチンが考えていることは「アメリカとの戦争」による一発逆転である。トランプとプーチンが“手を繋いで仲良し”になるはずがない。
不思議なのは、世界から孤立していこうとするトランプを、アメリカ国民が「レーガンの再来だ」などと持ち上げていることだ。世界でリーダーシップを発揮したレーガンとトランプは比べるべくもないが、私は、トランプを「レーガンの再来」と勘違いしてしまうことこそがアメリカの劣化の証拠だと考えている。
強く美しかったケネディの時代のアメリカは、国民もみな素養があり、世界をリードするのはアメリカなのだという自負を持っていた。しかしいまや格差が広がり、麻薬が社会の隅々にまで蔓延し、「アメリカが世界を引っ張っていく」という意識などなくなってしまっている。だから、「自分たちさえよければいい」というトランプに拍手喝采してしまうのだ。
※SAPIO2017年1月号