最も自国民を殺したとされる中華人民共和国初代国家主席・毛沢東(1893年~1976年)は大躍進政策で5000万人もの餓死者を出した。というのも、大躍進政策の4害駆除運動(蝿、蚊、鼠、雀)では雀を大量に駆除したことでかえって害虫が大量発生し農業に大打撃を与え、にも関わらず強烈なノルマを強いたことで逆効果になったからだ。
復権を狙った文化大革命では、貴重な文献や工芸品のほか、寺院や歴史的文化遺産が徹底的に破壊された。文化破壊のみならず、チベットなどへの弾圧を行い反対勢力を粛清し、被害者は数百万人を超えた。
ほかにも邸宅から政敵たちの生首が発見され“食人大統領”とも呼ばれたウガンダの第3代大統領イディ・アミン(1925年~2003年)は30万人を虐殺した。いずれも「理想の実現」を目指して起こされた惨劇であり、近代の独裁の特徴だ。
ドイツ国総統のアドルフ・ヒトラー(1889年~1945年)は、他と同様に理想を掲げつつ類を見ない特徴を持つ。歴史作家の島崎晋氏は「特定の人種や社会的弱者を排斥の対象にしたうえで、『最終的解決』という言葉を使って大量殺戮を実行に移してしまったことは特異です」と指摘する。結果、人類にとって許されざる大罪を犯した。
ただ、どんな凶悪な独裁者でも、治世初期においては「まとも」とされた者が多かった。第一次大戦後のドイツを建て直したヒトラーの経済政策は評価されることがある。
たとえ良君であっても凶悪な独裁者になる可能性は否めない。現代の為政者たちはどうだろうか。
※SAPIO2017年1月号