(1)マンションの価値は建物のみ
マンションの不動産価値は一般的に、ほとんどが建物である。一般的には土地30%に対して建物が70%、タワーマンションでは建物割合は90%程度になる。ということは、経年とともに建物は劣化するので不動産価値としては、新築分譲後は価値の劣化が早いことになる。今はピカピカでも築30年のマンションには誰も振り向かない。巨額の住宅ローンを背負っても30年後の不動産価値に想いを馳せる人は少ない。
ちなみにマンション価格が上昇しているのも、その多くの原因が建設費の上昇にある。3年前と比較しても建設費は30%から40%も値上がりしているから分譲価格が高騰するのは単なる原価アップにすぎないことがわかる。
(2)合意形成が難しい老朽化マンションの管理組合
マンションは区分所有であることから、建物全般に関わる意思決定をすべて区分所有者間の合意に基づいて決定しなければならない。最初は仲の良い住民でも年月の経過とともに資産格差や価値観の違いが明らかになるのが人生。永住する資産の価値を維持するのに自身の思い通りにはならないのがマンションである。
(3)リスクに弱い区分所有という所有法
一見すると堅牢な建物で災害にも強いと考えがちなマンションだが、建物も経年劣化する。必要な修繕費も区分所有者全員がその負担に耐えられることが前提となる。また大地震などで設備機能がマヒした場合には、復旧には多くの困難が伴うことは東日本大震災でも経験済みである。
(4)分譲マンションの賃貸化が大幅増に
賃貸マンションは、これまでは建物仕様が劣悪である、家族向け物件が少ないなどの理由から、分譲マンションが求められてきた。
しかし、REITやファンドなどが優良な賃貸マンションを供給するようになったこと、またこれからは団塊世代などが所有していたマンションが相続などで大量に賃貸物件として出回ってくることが予想され、マーケットには良質でバラエティに富んだ賃貸マンションが低価格で多数供給されることが予想される。
(5)ライフステージの変化に適応できるのは賃貸
現代では夫婦共働きや転職が当たり前になる中、住宅ローンで縛られた所有マンションにこだわるのではなく、それぞれのライフステージにあわせてマンションを賃借することが合理的な生活スタイルになる。
区分所有マンションは中長期的には不動産価値を保つことが困難な資産である。パリのアパルトマンは長い歴史を持つが、かつて分譲された物件よりも、公営の賃貸アパルトマンのほうが、不動産価値が保たれ人気も高いそうだ。
私たちはそろそろマンション所有の幻想から目を覚ます時代にきているのかもしれない。
●まきの・ともひろ/東京大学卒業後、現みずほ銀行、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産に入社。「コレド日本橋」など数多くの不動産買収、開発業務を手掛ける。2009年にオフィス・牧野ならびにオラガ総研を設立し代表取締役に就任。ホテル・マンション・オフィスなど不動産全般に関する取得・開発・運用・建替え・リニューアルなどのアドバイザリー業務を行なう。著書に『空き家問題──1000万戸の衝撃』『2020年マンション大崩壊』などがある。