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AV出演強要「騙された私のギャラは1.5万円でした」

「シングルで大変だろう、少なくとも今の3倍以上稼げると……今考えれば怪しい話ですが、生活にも疲れ、一人で子供を抱え将来どうすれば良いのかという不安もあり、Xの話に乗ってしまいました。ダメなら元の生活に戻ればいいと」

 数日後、契約書どころか”口約束”さえもないまま、Xに「宣材(宣伝写真)撮影」との名目で連れていかれたのは都内のハウススタジオ。そこにはなぜかムービー(動画)用のカメラが用意され、女性のメイク兼スタイリストの他に、見知らぬ男性が5人ほど待っていた。

「部屋に入った瞬間に悟りました。Xはすでにいなくなっていて、監督らしき男から、これからAV撮影が始まることを告げられた。拒否すると契約しただろう、口約束でも違約金は発生する、風俗でもなんでもやってカネを返済しろと、ものすごい勢いで怒鳴られて……」

 そもそも契約書を書いた覚えも、契約した覚えもない。その時、数人の男たちに凄まれ成すすべなしというマリカの肩をそっと抱いて、優しい言葉をかけてきたのはメイク兼スタイリストの女性だ。

「気持ちはわかるが、大人の社会のルール。何百万の違約金を払うために何ヶ月も風俗で働くのがいいか、一回っきり、AVに出てお金をもらって帰るか。今日一日だけ頑張れば、子供に美味しいものを食べさせてあげられる、と言うのです。何人もの男性に囲まれ怒鳴られていたので、その女性の言葉が唯一の救いの手のように勘違いさせられました」

 冷静に考えれば、そのスタイリストの女性も彼らとグルだとわかる。あらかじめ役割分担を決めた徹頭徹尾デタラメな、無茶苦茶すぎる茶番だ。しかし孤立無援の状態で怒鳴られ続けると、それが仕組まれたモノだと判断する力も奪われてしまう。

 結局、数時間に及ぶ恫喝と甘言の波状攻撃に、マリカはついにAV出演を受諾してしまった。3人の男性と計4時間にわたる性交を終え、手渡された封筒の中に入っていたのは、現金1万5千円。呆然としながら自宅に帰ると、子供が笑顔で抱きついてきた。

「いくら生活のため、子供のためとはいえ、あんな風に騙されてしまった自分が本当に悔しく、涙が止まりませんでした」

 悲劇はこれで終わりではなかった。マリカが出演したAVは海外発信の日本向けアダルトサイトから無修正で有料配信され、4時間の撮影分は2本のタイトルに分けられていた。Xに問いただしても「何も知らない、俺も騙された」の一点張り。マリカに経済力も知識も支援する後ろ盾も無い事を知っているXは「訴えるなら訴えてみろ」と強気の姿勢を崩さないという。

 マリカの例を聞いても、人ごとのように思われるかもしれない。しかし最近になって、このXら一味が代表を務める複数の法人がネット上のSNSに「モデル・タレント募集」の広告を大々的に打っていることが判明した。特定のテレビ番組や雑誌、ファッションショーの出演者オーディションと銘打ち、複数の雑誌の表紙やイベント名が、あたかも”協力関係者”のごとく掲載されている。

 オーディション対象として雑誌名やイベント名を記載されているうちの2社に、出演者を募っているHPの会社との関係を聞いたが、いずれも全く関わりがない「無断転載」であることが確認された。2社とも法的対応を含め、なんらかのアクションを起こすと語った。

 その虚偽の出演者オーディションをうたうHPをみると「ママさんモデルも募集」などといった、マリカの例を思わせる文言も見られる。マリカのような辛い目に会う女性が、新たに生み出されている可能性も非常に高い。

 前出のXの知人は、アダルト業界の動向を知れば、Xが何をしたいのか、手に取るようにわかるという。

「Xの狙いはまず、オーディション参加者から、登録料だ撮影料だといってカネを巻き上げること。そして、さらに騙せそうな相手を見つけて、レッスン代や育成費、プロモーション代といった、本来は事務所側が支払うべき名目で数十万から数百万の借金を負わせ、その返済のために風俗で働け、AVに出演しろと迫る。風俗もAVも以前に比べて稼げる仕事じゃなくなったのに、Xのようなヤツらが女の子を送り込み続けている。あまりにも過剰な供給が続くから、ビジネスモデルが崩壊していますよ。でもXは”元手はタダの商売”とうそぶいて、女の子を送り込むのをやめない。風俗やAVという仕事に対してのプライドもないのでしょう。もちろん、女の子の稼ぎからありえない率の中抜きをすることは忘れません」

 人をだまし、その業界のビジネスがどうなろうとかまわないと考えている人間が狙っているのは、無知な若者や選択肢がない貧困者、後ろ盾がない弱い者たちだ。彼らが勇気を振り絞って被害に遭ったことを訴えるとき「君たちにも過失があった」と非難するのは、糾弾して罪を認めさせるべき相手を間違えた、あまりに歪んだ態度ではないか。

 2017年はせめて、弱い者をさらに攻撃するような社会から、本当に卑劣な行為に対して糾弾する声がもっとも大きくあがる世の中になってほしい。

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