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お正月に入院したとき、医者から「これからは酸素を吸いながら落語をしたほうがいい」と提案されました。そのときは「それはちょっと……」と、躊躇しましたが、復帰後、最初の高座で酸素なしで喋ったら、途中で震え声になっちゃって。
今回は酸素吸入器をつけて高座に上がりますが、それでも上手く喋れないようなら……引退するしかない、と考えています。
〈突如飛び出した“引退宣言”。記者の動揺を察したのか、歌丸は笑いながら続けた〉
酸素を吸いながらの噺ってのは今回が初めてじゃないんです。昨年、一度だけやりました(11月30日の高座65周年記念落語会)。鼻からチューブが出てると、照明で光っちゃいましてね。大きな会場だったから後ろのお客さんには見えなかっただろうけど、前のほうのお客さんの視線が気になって仕方なかった。照れ隠しで、
「『今日は歌丸、水っ鼻たらしてるんじゃねーか』と前のほうのお客さんがいってますけども、実は事情がございまして~~」
とマクラで話したら大ウケでね。噺家は陰気な話をしちゃいけない。自分の病気ですら、笑いに変えるべきだと改めて感じました。
「引退」なんていいだしたのはね、何も病気のせいだけじゃないんです。この状況をネタにして、「終活」がテーマの新作落語を作れればなんて思うけれども、もう新作をやるのは無理ですね。80歳にもなると物覚えも悪くなってきて。昔だったら一発で覚えられたものが、今は5倍くらい時間がかかってしまう。自分にイライラします。
覚えた噺を部分的に忘れちゃうことも増えました。たとえば、登場人物がお勘定するくだりで「何両渡したか」を話しているうちに忘れちゃう。でも、そういうときは、「俺、さっき“ウゥ両”渡したよな!」って、大きい声出して勢いで誤魔化すの。だから高座の途中でアタシの声が大きくなったら、噺をド忘れしたときですよ。ウェッヘッヘ!
※週刊ポスト2017年2月24日号