◆トイレに入るだけでも観光価値のある街
地域性やお国柄が垣間見られるのもトイレの面白さだ。
「たとえば取材当時、京都・奈良のお寺には和式が多かったんです。外国人観光客が多い場所だけに意外でしたが、あえて古都と不似合いな洋式にしなくてもいいという気概があるのでは、と、日本トイレ協会の方は分析されていました。また、和歌山県は本当にトイレが綺麗で、なかでも捕鯨で有名な太地(たいじ)町は、町長が『トイレを応接間に!』という目標を掲げているほど。くじら浜公園の公衆トイレの広さと美しさは格別で、トイレに入るだけでも観光価値のある街だと思います。
それから家庭のウォシュ・トイレ率が高いのは、富山県と滋賀県です。全国平均の76%に対して、80%を超えているんです。統計元によって数値は多少異なりますが、私が調べたとき、富山は85%でした。その理由は今回の取材によって明らかにならなかったので、継続案件です。わかる方がいたら教えていただきたい」
トイレの美しさ、珍しさは人を呼ぶ。最近は、高速道路のパーキングエリアやサービスエリアのトイレも進化中だ。富士山が正面に見えるトイレ(富士川楽座)や、ふかふかの絨毯が敷き詰められたトイレ(刈谷ハイウェイオアシス)など、思わず行ってみたくなるトイレ情報が満載。また、トイレ探検隊員から寄せられる海外情報には、知られざる北朝鮮のトイレ事情も。一番多かったのは、ドイツのアッと驚くトイレだという。
「ドイツには、便座が回転するトイレがあるんです。中央に清掃ブラシのようなものが付いていて、便座が回転することで、自動清掃される。日本人はトイレ先進国という自負があるだけに、日本にはないこの機能には驚くようで、多くの方から報告をいただきました」
そもそも、なぜ日本人はトイレに対するこだわりが強いのか。坂上さんはこう分析する。
「日本は昔から、排せつ物を大切な堆肥として使ってきました。大きな農家は肥料が足りないから、下肥(しもごえ)といって、人糞尿を買ったり野菜と交換していたくらいなんですね。だからトイレは、汚いもの、排せつをする場所というより、共同体にはなくてはならないもの、われわれの生活を循環させる大切なもの、という考えがあるのだと思います」