まず、現行の区分所有法やその他関連法によると全区分所有者の5分の4の賛成によって建て替えが可能とされている。反対者からは、その持ち分を買い取るということになっている。
これは何とも使いづらいルールだ。まず、5分の4というハードルが高い。100戸のマンションなら、あわせて21戸の所有者が反対票を投ずるか議決権を行使しなければ議決できない。私は賛成票が7割程度しか集まらず、なかなか建て替え決議ができないマンションをいくつか知っている。こういうマンションでは建て替え賛成派と反対派に分かれて長年いがみ合うので、コミュニティがどこかギスギスしている。
次に、資金的な問題である。先に挙げた252例の建替えはほとんどの場合、元の区分所有者の負担額が0円だったと推定できる。中には、新しいマンションが建つまでの仮住まいの費用まで、建て替え事業の主体となったデベロッパー企業が負担したケースもあるはずだ。
負担額0円で建て替えができるマンションには、幸運な条件が重なっている。
(1)容積率が余っている
(2)分譲マンションの立地として需要が見込める
(3)開発事業を行うデベロッパーが名乗りを上げる
つまり、そのマンションを建て替えると住戸を増やせて、その住戸を売ることでデベロッパーが利益を得ることができる物件は、建て替えが可能なのである。
そうでない場合はどうなるのか? 元の区分所有者が建替え費用を負担しなければならない。
建築費が高騰した現在、首都圏でマンションを建築するには1戸当たり2300万円の費用がかかる。したがって、容積率があまっていないマンションを建て替える場合は、戸当たり2300万円の建築費に加えて、反対した住戸を買い取る資金を用意しなければならない。これはいかにもリアリティのない話だ。
築30年、40年と経過したマンションは、区分所有者の老化も進んでいる。年金で暮らしている人も多いだろう。そういう高齢者に2300万円プラスアルファの負担を求めても、全体の8割以上の人が払えるだろうか。
マンションという住形態はこれまで、多くの日本人を幸せに導いてきた。しかし、これからの時代はマンションの「出口」をしっかりと整備して、日本における主たる住形態として定着させなければならない。
そのために必要なことは、今のあまりにも強力な所有権の保護を改めるべきである。
老朽化したマンションの区分所有権は、公的な機関が半ば強制に買い上げる制度などを検討すべきだろう。あるいは、「減築」という制度も創設すべきだ。500戸の団地に100世帯しか住んでいないのなら、どこかの住棟にその100世帯を集め、残りの400世帯分を取り壊して公園や公共施設を建設するような制度だ。
私たちは今、もう一度このマンションという住形態のあり方とその未来についてじっくりと考え、行動するべきではないのか。