◆妻との唯一の楽しみが……
笹野教授によると、そうした味覚障害の“入り口”にさしかかるのは、前期高齢者(65~74歳)の世代が多いが、定年退職を境に、人と食事する機会が減ってしまう人もいるため、危険なサインが見逃されがちになるという。問題は健康面にとどまらない。
「定年後の妻との二人暮らしで、唯一の楽しみで共通の会話といえば食事のことくらいだったのに、“味が薄い”“そんなに塩辛いのは食べられない”と、食事の度にケンカが絶えなくなってしまった」(70代男性)
家族関係にまで影響を及ぼすこともあるのだ。
◆これからの季節に発症しやすい
さらに、75歳を過ぎた年代になると別のリスクも生まれてくるという。笹野教授が言う。
「症状が進んで怖いのは、『食べ物の味がしないから食事がつまらない』と食べなくなってしまうこと。そうなると、栄養失調のような状態になってしまい、体重や免疫力の低下を招き、重篤な病気にもつながる。高齢者の味覚障害において、最も心配すべきパターンです」
食への関心を失うことは、命を縮めるリスクに直結するのである。寒くなる季節は症状が進行しやすいので特に注意が必要だと笹野教授はいう。
「食べ物の成分は唾液をつたって舌の上に広がり、脳へ信号として伝わります。加齢で唾液が少なくなることも、味を感じにくくなる一因ですが、これから寒くなり乾燥した気候になると、口はさらに乾きます。冬季は味覚障害が発生、進行しやすいのです」
※週刊ポスト2017年10月13・20日号