結果としては外れた余命宣告だが、川口さんは今も、あの余命宣告とは何だったのかと考える。
自身があとどれだけ生きられるかを知ることは非常に有意議であるが、同時にそれを告げられることは極めて残酷でもある。そんななか、「余命宣告」に異議を唱える医師が現われ始めている。日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之医師は言う。
「余命宣告は患者さんを傷つけるだけ。別の病院で余命宣告を受け、私のところに来た患者さんの中には『死刑執行日を宣告された気分だった』と話す人もいました。
すでに進行しているがんだからといって、そこからさらに進行するかどうかはわからない。現状維持を長く保てるケースだって存在します。にもかかわらず余命宣告をすると、ショックで体調を悪化させるケースも少なくない。私は予後にどんな症状が出て、その解決策を提案することはありますが、余命宣告はしません」
帯津三敬病院の帯津良一名誉院長は「医師の都合のせいで余命は“正確ではないもの”になりかねない」として、余命宣告に反対する。
「もし医師が『余命3か月』と患者に伝えたなら、心の内では『半年程度は持つだろう』と思っていても不思議ではありません。余命通りに生きられなかったことで遺族とトラブルにならないように、医師は患者に“短め”に余命を伝えるケースがあるからです。
短めに伝えておけば、それより長く生きると『余命より長く生きられた』と感謝されることさえある。余命が当たらないのは、“医師の責任逃れ”のせいでもあるのです」
※週刊ポスト2017年12月22日号