ホテルシップの停泊場所は、東京港をはじめ川崎港、横浜港、木更津港が予定されている。東京都は東京港のホテルシップ運営事業者に、欧州最大手でスイスに本社を置く船会社「MSCクルーズ」を選んだ。客船の「MSCリリカ」は全長274メートル、客室数992室、乗客定員は2679人。豪華な設備を備えたエレガントな客船は高級ホテル顔負けだ。
一方、旅行会社のJTBは豪華客船として知られる「サン・プリンセス」をチャーター、山下ふ頭にシップホテルとして停泊させる。全長は261メートル。東京都庁の高さが243メートルなので圧巻の大きさだ。客室は1011室で2000人以上の宿泊が可能。高級レストラン、プール、スパなども完備、2泊3日のプランで1人あたり7万円台~60万円台という。
いずれも単なる宿泊場所の提供だけにとどまらず様々なプランを提供する予定で、観光も満喫できるステイという点でも魅力だ。もちろんオリンピック観戦とセットになったプランも売り出されることだろう。
過去のオリンピックでも船をホテルとして利用してきた。記憶に新しいところでは、ロンドン、ソチ、リオデジャネイロといったところであるが、じつは1964年の東京オリンピックの際にもホテルシップが利用されたという。一大イベントの急激な宿泊需要にホテルシップの活用は歴史的な定番スタイルなのだ。
ただ、課題もある。ホテルシップは旅館業法や入管法などの法令面で規制の対象になるからだ。
例えば、旅館業法では窓のない客室を設置できないとされているが、船では窓のない客室がある。また、入管法では外国人乗組員が寄港先で上陸できる日数を最長7日までとしているが、五輪会期には足りない。そういった面でもホテルシップについて政府は規制緩和の方針を打ち出している。
大型の客船には客室はもちろんレストランやショップ、シアターなど様々な施設があり、さながら“ひとつの街のよう”といえる。それでいて移動もできるフレキシブルなシップホテルは、オリンピックホテル不足の救世主となりうるだろうか。
●文/瀧澤信秋(ホテル評論家)