いまの日本の財政がどのくらいひどいかと言えば、「敗戦時並み」だ。国の経済力を示す国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率が、それをはっきりと物語っている。国際的には100%超なら財政悪化と見なされるこの比率が、日本は2019年度末に220%に達すると見込まれている。ちなみに、1945年の敗戦時の比率は正確な統計は残されていないが、優に200%を超えていた。

 戦後、国民は生活に困窮した。敗戦による国土荒廃と経済の混乱のせいだけではない。戦前・戦中に軍事費をまかなうため、政府が借金(国債発行)を重ねた末の、財政破綻の結果でもあった。

大政翼賛会が1941年10月に配った冊子『戦費と国債』

国民に戦時国債の購入を呼び掛けている

 日本国債も通貨円も、いまは国際金融市場で「安全資産」とされている。だが、未来永劫そうだという保証はない。

「このところ債券市場で新発国債の取引が成立せず、値がつかないことが頻発しています。日銀が大量の国債を買い占めてしまい、民間同士の取引が低調になっているためです。日銀が国債を買い支えているから、国債価格の急落、つまり長期金利の急上昇というかたちで市場の警報装置は鳴らなくなっている。ただ、この取引不成立も、一種の“警報”と考えるべきではないかと思います。

 近年でも、ベネズエラやギリシャ、ジンバブエ、トルコなど、財政危機や通貨危機に陥った国は少なくありません。そうしたなかで、日本だけが財政破綻を回避できると楽観視して、さらに借金を重ねていくのは、無責任のそしりを免れないでしょう」

「異次元緩和」を続ける日銀が保有する国債は今や、政府が発行している全国債残高の5割近い470兆円にのぼる。この数字自体まさに「異次元」だが、日銀は粛々と国債買い入れを続けている。しかし、歴史は「多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐような心配は全然無いのであります」という根拠の薄い惹句は信用しないほうがいいと教えている。

※『日本銀行「失敗の本質」』より一部抜粋、再構成

【プロフィール】原真人(はら・まこと)/1961年長野県生まれ。早稲田大学卒。日本経済新聞社を経て、1988年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経済産業省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員を経て編集委員。著書に『朝日新聞記者が明かす経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)『日本「一発屋」論-バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)などがある。

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