「若い時はラグビーだけに集中していたけど、日本に来てから生活や文化が面白いと感じました。たとえば、日本でいちばん好きになったのは『尊敬』。若い人は年上の先輩を尊敬する。でも、日本人が尊敬や感謝するのは人だけじゃない。日本人は食事に感謝し、自然を尊敬する。そういう日本文化が、めっちゃいいなと」
2007年、3年間の継続居住の条件をクリアしたトンプソンは日本代表の合宿に招集される。しかし迷いがあった。自分が日本代表としてプレーするとは想像もしていなかったからだ。しかも一度、他国の代表になると、母国のジャージは諦めなければならない。悩んだ末、父に相談すると「面白いチャレンジじゃないか」と背中を押してくれた。
初出場となった2007年W杯。結果は予選プールで3敗1分け。勝利は遠かった。
そして自身2度目のW杯前の2010年に帰化し、日本国籍を取得した。帰化の理由をトンプソンはこう説明する。
「ぼくは、ふるさとのニュージーランドも大好きです。でも、日本の生活が長くなった。だから日本代表としてプレーするからには、日本人として戦いたいと思ったんですね」
集大成と位置付けていた自身3回目となる2015年の前回W杯。日本代表は強豪南アフリカを破った「スポーツ史上最大の番狂わせ」を演じる。トンプソンは、全試合にフル出場し、3勝を挙げたチームをけん引した。
もうやり残したことはない。そう思って日本代表からの引退を決めていたのだが──「めっちゃ好き」と語るラグビーの魅力は、彼の心を捉えて放さなかった。