トライをもぎ取った全員の力(撮影/藤岡雅樹)

 昨年6月16日、神戸市で行われた日本代表対イタリア代表。トンプソンは自宅でテレビ観戦した。切磋琢磨してきた日本代表選手たちのプレーに、アツい思いがよみがえってきた。テレビを一緒に見ていたニュージーランド出身の妻には、夫の気持ちが手に取るようにわかった。

「まだやりたいんでしょ。やるのなら応援するわ」

 妻の言葉を胸に、トンプソンは桜のジャージに再び袖を通す決意を固める。

 来日から15年の歳月が流れている。その間に、3人の子供にも恵まれた。

「ぼくの子供たちはみんな日本文化で育ちました。日本は、ぼく1人だけの問題じゃなくて、ぼくの家族のライフにもなったんですね」

 日本のファンから「トモ」の愛称で親しまれるトンプソンは、今回W杯で日本代表歴代最多タイの4回出場を果たした。また、日本代表最年長出場記録も更新中だ。12年にわたり、日本代表を支えてきた“鉄人”は、今大会を最後に、現役引退を表明している。だからこそ、ファンの応援にも熱がこもる。

 トンプソンがピッチに登場するとスタジアムのあちこちから声援が飛ぶ。

「トモ、頑張って!」
「トモさん!」

 彼が日本のファンにいかに愛されているか。ファンたちは鬼気迫るタックルを繰り返す38才のおじいちゃんを心から尊敬しているのである。

取材・文●山川 徹(ノンフィクションライター)
やまかわ・とおる/1977年生まれ。山形中央高校2、3年時に全国高等学校ラグビーフットボール大会(通称“花園”)に出場。東北学院大学法学部卒業後、國學院大學二部文学部史学科に編入。主な著書に、『東北魂―ぼくの震災救援取材日記』『カルピスをつくった男 三島海雲』『国境を越えたスクラム――ラグビー日本代表になった外国人選手たち』など。

※女性セブン2019年10月24日号

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