詐欺で刑務所に入り出所してきた30代男性は、自分がかつて携わっていた詐欺は「金持ちの年寄りを狙っただけ」「お金があるところから、ないところへ動かしただけ」と今も良心の呵責を見せない。しかし、出所後に見た、かつての特殊詐欺の有り様は、まったく別のものに変貌していた。ライターの森鷹久氏が、刑事罰が詐欺の抑止力として十分に働いていない皮肉な状態についてレポートする。
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「お疲れっす。コーヒー頂いていいっすか? あと腹も減ってるんで…なんか食いもんありますかね?」
開口一番、挨拶もままならぬうちに筆者の前にドカッと腰を下ろす男性。短く刈り込まれ金髪に、白いTシャツとピチピチのダメージジーンズという出で立ちは、某人気歌手グループのメンバーを彷彿とさせる。
「正直、俺のメリットってなんすか? 兄さんのお願いだから仕方ないすけど、結構時間の無駄なんですよね、マジな話」
東京都在住だというK(三十代)は、筆者がかつて取材をした元暴力団幹部の弟分で、いわゆる「半グレ」メンバーの現役リーダー格。高校卒業後、リフォーム業界で働き、仲間らとともに出会い系サイトを運営する会社を立ち上げた。しかしその会社は「異性紹介事業者」の届出を出していない、会員は全員サクラで利用者から金をむしり取る事だけを目的にした「違法業者」であった。筆者とは年齢が少ししか変わらないが、圧倒的に見た目が若いのは、今も多くの若者たちを使って「仕事」に手を染めているからか。
「リフォームの仕事はほとんど詐欺でしたね。年寄りの話し相手して、リフォームしてもらう。20(万円)で済むところを100(万円)とか200(万円)とる。まあ、そんだけ払える連中からしか取ってないし、向こうも納得してるし、ホワイト詐欺ですよ(笑)」
あまりに身勝手な言い分に合いた口が塞がらないが、Kはずっとグレー、あるいは完全にブラックな仕事を続けてきた。
「出会い系サイトのサクラだって、欲望まみれのオッサンとかオバチャン騙すだけ。カネは俺らより持ってるでしょうし、ないもんは取れないすから。海外の宝くじが当たったとか、税金の還付金があるってハガキやメール送ったりするヤツもやりましたね。これも結局S(詐欺)だけど、多少カネがあってがめついヤツがかかるんですよ」
だから心は痛まない、とでも言いたいのだろうか。自分は犯罪行為をやっているが、相手は自分より金持ちで、欲にまみれ、がめつい。だから騙しても良い。そんな理屈だ。派手に犯罪業界を渡り歩いてきたKには、当然「前科」もある。二十代の中頃に、知人から銀行口座を買い受け、反社勢力に横流しし、逮捕されたのだ。