映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、日本における一人芝居の第一人者である俳優・イッセー尾形が芝居を始めたきっかけ、役作りについて語った言葉をお届けする。
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イッセー尾形は一九七一年、十九歳で演劇学校に入り、役者としてのスタートを切る。
「当時、ビル清掃のバイトをしていまして。同僚の女の子がパントマイムをやっていて、それに惹かれるものがあったんです。お客さんを巻き込んでパフォーマンスをすること自体に。
僕は自分をスポーツマンだと思っていたんですが、勝ち負けよりも人がアッと驚くような技を見せることにウェイトがかかっていた気がします。ゴールキーパーやっていても、点をとられているのにカッコいいセービングやって、悔しがるパフォーマンスすることを大事にしたり。
根は凄くシャイだと思っているんですけど、ゴールキーパーをやっていると自分を解放できたような気がしました。今から考えると、それが『役』だったんでしょうね。
入った演劇学校がまた面白い所で。発声練習とか演劇の基礎は教えないんです。自分で本を書いて、演出して、共演者を選んで。小さなドラマを自分で作りなさい、というやり方でした。
ネタとしては、『走れメロス』をミュージカル仕立てにしたりとか、好き勝手なことをやっていました。今に近いですね。
最初から一人で作っていく世界を探求していたもので、それに勝る喜びはないだろうという勝手な思い込みがありました」
その後、一人芝居の道に進み、現在に至るまで約四十年、数多くの役柄を演じてきた。