小児外科医の松永正訓(ただし)さんの著書『発達障害に生まれて──自閉症児と母の17年』が、第8回『日本医学ジャーナリスト協会賞』大賞を受賞した。
この賞は質の高い医学・医療ジャーナリズムが日本に根付くことを願い、2012年に創設された。選考基準は、「オリジナリティー」「社会へのインパクト」「科学性」「表現力」。11月18日に授賞式が開かれ、大賞、優秀賞受賞者によるシンポジウムが行われた。
松永さんは一貫して、幼い命の尊さ、それを守る難しさ、障害を受容する苦難をテーマとしてきた。同書では、「普通」でなくてもいいという価値観と、子どもではなく親が変わる必要性を述べた。
そして、授賞式では、「世の中は不条理に満ちている。だけどそれを受け入れて歩むことこそ人生の意味だと思っています。共生、連帯を信念として、これからも書き続けたい」と結んだ。
◆受容するしかない まずはこの一歩から
そんな松永さんがこの10月に『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)を上梓した。ここには、さまざまな先天性の障害をもった子どもたちについて綴られている。そのなかに、松永さんの原点となったエピソードがある。
生まれてきた双子の第一子は死産。第二子は生きていたが、体外に腸が飛び出している、腹壁破裂という病気を抱えていた。緊急手術が行われ、腸を腹の中に押し込んだため、お腹が胸を圧迫し、自力呼吸ができない。人工呼吸器の付いた状態で病棟に連れ帰ったのだが──。
《家族控室には、赤ちゃんの父親と両家の祖父母が集まっていました。私たちは赤ちゃんの様子を口頭で伝え、それから面会してもらうことにしました。ただ、ちょっと心配がありました。実は赤ちゃんの奇形はお腹だけではなかったのです。両手両足の指が6本ずつあったのです》(『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』より抜粋)
先輩医師は、指は命に関係ないと説明したが、家族は顔やお腹ではなく両手両足を食い入るように見ていたという。