会計検査院が「関連施策」と位置づけた支出のなかには、文部科学省の「ナショナルトレーニングセンターの拡充整備」、環境省の「熱中症対策推進事業」など、五輪に直結することが誰の目にも明らかな事業もあるが、詳しく見ていくと、「なぜこれが?」と気になる項目がいくつもある。
なかでも目立つのが、水素関連事業の多さである。冒頭に紹介した「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」256億円をはじめ、水素自動車の購入を支援する「クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金」695億円、家庭向け燃料電池(エネファーム)を普及させるための「燃料電池の利用拡大に向けたエネファーム等導入支援事業費補助金」498億円など、多額の支出が経産省からなされている。その根拠となったのが、政府が2015年に作った東京五輪の基本方針である。
〈日本が世界中の注目を集め、多くの外国人が訪日する機会となる大会を、「強い経済」の実現に向けたイノベーションの牽引役と捉え、大会を通じて日本の強みである技術をショーケース化し、世界に発信する。具体的には、水素社会の構築に向けた環境・エネルギー技術、自動走行技術の実用化、ロボット技術、高精度衛星測位技術を活用した新サービス等を制度面も含めて推進する〉
ここで筆頭に掲げられた水素は、折りに触れて五輪と絡めてアピールされ、予算枠を拡大していくことになる。
経産省が2019年3月にまとめた「水素・燃料電池戦略ロードマップ」には、五輪までの水素ステーションに関する工程表が掲げられ、〈東京オリンピック・パラリンピックまでに無人の水素ステーションを運用することを目指す〉と明確に目標設定されている。経産省はこう説明する。
「東京五輪では“省エネルギーによって二酸化炭素の排出を削減して環境負荷を低減させる”ことが提言されています。東京都は福島で生産した水素を五輪で使うという協定を結んでいますし、五輪では水素燃料のバスが導入され走ります。ただし、東京五輪に限ったものではなく、補助金は全国で使われています」(新エネルギーシステム課担当者)