東京商工リサーチが2019年12月に発表した「2019年(1~11月)上場企業『早期・希望退職』実施状況」によると、同時期に早期・希望退職を募集した上場企業は36社で、対象人数は1万1351人に達した。業績が堅調にもかかわらず、将来の市場環境を見据えた「先行型」の実施も見られたという。いわゆる「黒字リストラ」だ。
データを調べると、2019年に100人以上の人員削減を行った企業は17社ある。最大のリストラを行ったのは富士通でなんと2850人。早期退職の対象は45歳以上だ。このほかジャパンディスプレイが1266人、パイオニア950人、東芝が823人など、大手企業のリストラが目立つ。人事や総務といった間接部門の削減、配置転換が主流となっている。
今後、定年が引き上げられても、企業からすれば継続雇用で給料が大幅にダウンする高齢社員を雇い続ける一方で、40代、50代の高給取りの“余剰社員”をリストラすれば人件費を大幅に削減できる。正規社員を減らし、非正規社員を増やしてきた手法と同じ論理である。結局、しわ寄せが現役の中堅・若手社員にくるという構図になりかねないのである。AI導入もリストラの加速に弾みをつける要因のひとつだ。
政府が音頭を取って「70歳定年」時代を実現したところで、リストラの嵐を乗り越えて70歳まで同じ会社に残ることができる社員はどれだけいるだろうか。高齢社員が増えた企業での若手・中堅社員のストレスやモチベーションはどうなるのか。企業が経営効率を追い求め続ける限り、70歳定年の恩恵を受けられる社員と、そのはるか前にリストラされる社員という現実が待ち構えているのではないだろうか。
高齢者の就業機会を増やすことは方向的には間違いではないだろうが、単なる就業期間の延長だけでは超高齢化・地方疲弊・格差拡大社会の問題解決には不十分である。社会保障、税金、年金、人口問題、地方活性化などを総合的にとらえ、20年後、30年後の国家像を国会で徹底して議論し、国民に提示していくべきだ。
明確な国家ビジョンを示すことができないまま70歳定年を先行させようとしても、社会のコンセンサスは得られない。