給付金30万円案が撤回! ”辞表”は考えなかったのか?
岸田:そうですか。あの時は与党のトップ会談で議論した結果、安倍総理(当時)が決断して「これでいきたい」と話がおりてきた。電話などで2日間くらいやりとりしましたが、最後は総理の決断だから仕方ないという感じでした。
杉村:あの時は一歩間違えたら自民党内がガタガタになったはずで、岸田さんがイメージダウンをいとわずに10万円案を受け入れた瞬間が「分断から協調」へのクライマックスでした。安倍さんの任期は来年9月までだったので、計算高い人なら辞表を叩きつけて「やってられねえよ」と芝居を打って、強い政治家像を見せつけたのではないでしょうか。
岸田:それはあるだろうけど、私が責任を負っていたのは、総額230兆円に及ぶ経済対策全体です。給付金はそのうち12兆円、もちろん重要な要素で軽くみてはいないけれど、史上最大の経済対策をまとめる議論をするなかで、給付金がひっくり返ったからと全部を投げ出して、国民の生活や企業の事業継続を危険にさらすわけにはいかなかった。
杉村:全然よぎらなかったですか。辞表を叩きつけるなんてことは。もう岸田さんは政調会長ではないですし、安倍さんは総理をお辞めになったのだから、教えてくださいよ。
岸田:いまさら言っても仕方ないけど、いろいろなことを考えました(笑い)。
杉村:これは聞きたいですね! 一番過激な案は何だったんですか?
岸田:いやいや、過激なものも含めて考えたということです。ただ、安倍総理は、コロナ感染が拡大する中で、責任を一身に背負い、全身全霊で闘っておられた。鬼気迫るものがあった。その負担を少しでも分かち合うのが私の仕事であって、やっぱり、投げ出すなんてことはあり得なかったですね。
学術会議の問題で政府の説明は足りていない
杉村:総裁選で敗れた菅総理についてはあまり話をしたくないですか。
岸田:いいですよ。聞いてください。
杉村:岸田さんと菅さんは政治姿勢がだいぶ違うという印象があります。岸田総理だったら学術会議で6人だけ任命しないとか、携帯電話というイチ業界をターゲットにして値下げを迫るという政治はやらないのでは。
岸田:ああ、違うところは多いかもしれないですね。それぞれ信念をもって自分が正しいと思って政治をしているわけだから、違うのが当たり前ですよね。ただ、私は、同じ党にいて大きな方向性を共有する仲間である以上、仲間の批判をするのは好きではありません。批判ではなく、何が足りないのかを指摘するのが、あるべき前向きな態度だと思います。学術会議の問題でいえば、やはり政府の説明が足りていない。
杉村:もうそろそろ不一致を表明してもいいんじゃないでしょうか(笑い)。学術会議の件は確かに政府に任命権はあるのかもしれないけど、任命されなかった側は納得いかないはずです。携帯電話の値下げにしても、自由主義の世の中で総理がモノの値段を指示していいのか。だったら新幹線の料金はどうなのか。総理の指示のその法的根拠は何なのか、そもそも本当に料金は下がるのか。疑問ばかり浮かびます。
岸田:法的根拠というよりも、総理の主張に国民が「そうだそうだ」と賛同した。それが企業を動かすという仕掛けなのでしょう。国民世論がバックになっている。
杉村:それはポピュリズムではないでしょうか。国民世論が動けば、杉村太蔵の講演料を下げることもできるのか。ぼくとしてはそんなことより思い切り行財政改革をしてもらいたい。
岸田:まあそうですけど、行財政改革もしっかりやると菅総理は言ってますよね。そして、河野大臣が頑張っておられる。
杉村:ぼくが自民党の1年生議員だったら、菅さんを見ていてすごく不安になりますよ。こんなことしていたらいずれ支持率下がるのではないかと。何となくあの秋田弁でこっちはほっこりさせられているけど、菅さんの説明は本当にわかりづらいです。
岸田:だから私は与党の一員として、足りないところはアドバイスや提言をして、しっかり菅政権を支えていきます。ただ携帯料金をなぜ下げるかは、今後は5Gがデジタル社会の基盤になるからです。あらゆるサービスがスマホ経由になるデジタル社会の実現には利用料の値下げが必須ですし、携帯会社はデジタル社会で大きなビジネスチャンスを得ます。要は手段とともに、その先に何が見えてくるのかを説明することが大事です。