◆「ルッキズム批判」と「美しくなりたい」は同居する
いろんなタイプのブサイク女子たちの物語を読み込んだトミヤマさんが思うのは、「一人の人間のなかにも、美醜については様々な意識があり、矛盾もある」ということだ。
「見た目で不当に判断されるルッキズムはなくなるべきだと思っているけれど、美容皮膚科に行ったり、ダイエットしたりするのは好き、という人は実際にいます。宝塚など、徹底して美を追究する世界を愛している人もいます。私も、ルッキズムがどうのこうのと言いながら、ヒョンビンのルックスは大好きですしね(笑)。そういう矛盾を無理やり解消しようとするのではなく、自分の中に矛盾があるのだと自覚しておくことが大事なのかなと。そのためにも、もっと美醜について語ってほしいと思うんです」
そのとき、少女マンガをはじめとする物語は役に立つ。リアルな誰かについて語れば、傷ついたり不快に感じる人がいるかもしれないが、マンガのキャラクターを話題にすれば、だれも傷つけず、美醜について語れるからだ。
「ブサイクという言葉自体を口に出しにくい人もいると思います。それからブサイクな人なんて存在しないんだ、と考える人もいると思います。それはとてもよくわかるのですが、一方で、実際に容姿差別された人はいるわけですから、考えなくていい、見なくていい問題だとは思いません。この本が、語り合うきっかけになったら嬉しいですね」
挙げられている26作品は、萩尾望都、山岸凉子、岡崎京子、安野モヨコなどの大御所から、若手、知る人ぞ知る伝説的作家まで。ブサイク女子のビジュアルも人生もバラエティに富む。この年末年始に読みたい少女マンガを見付けるのもいいだろう。
本を手にとり、語り合うことで、ルッキズムについても自分自身についても、新たな思考回路が開くはずだ。
◆トミヤマユキコ/秋田県生まれ。早稲田大学法学部、同大大学院文学研究科を経て、東北芸術工科大学芸術学部講師。ライターとして日本の文学、マンガ、フードカルチャーについて書く一方、大学では少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。著書に『パンケーキ・ノート』『夫婦ってなんだ?』他。