そうした当局の露骨な“アリババいじめ”が始まると、時を同じくしてマー氏は公の場から姿を消した。SNSへの書き込みは10月を最後に途絶えたまま。11月に予定されていた番組収録もスケジュールを理由にキャンセルしている。
「一連の流れを見ていると、中国社会、特に中国の若者に与えるマー氏の影響力が強大化したことが、国家主席の習近平、および当局にとって切迫した脅威となっていることがわかります。アリババの電子商取引は売上高が激増する一方、市中の商店はどんどん潰れている。習近平は、アリババ及びマー氏を“社会不安を煽る危険因子”と見なし、是が非でもグループを解体して国有化したいと考えているのではないか」(石平氏)
マー氏は中国当局の怒りを買って拘束されているか、身の危険を感じて自ら目立つ活動を控えているかのいずれかだと石平氏はみている。
「いずれにせよ、当局の監視下にあるのは想像に難くありません。中国では当局の意向に背く経営者や富豪を拘留することは珍しくない。最近では“中国のトランプ”と呼ばれた不動産王、任志強氏が新型コロナの初動や情報隠蔽を巡って習近平指導部を厳しく批判し、直後に一時所在不明になったことがありました。任氏は昨年9月に汚職などの罪で懲役18年の実刑判決を受けています」
今後、マー氏がアリババグループから完全に身を引き、この巨大企業を丸ごと共産党に差し出せば「実質的な軟禁状態からは解放されるだろう」(同前)との見方もあるが、出国は生涯認められず、当局の監視対象になることは避けられないとみられている。
イスラム昔話のアリババは大金を手にして繁栄を築いたが、マー氏は当局にすべてを奪われ、いばらの人生を歩むことになるのだろうか