世界遺産に指定されると文化的な意味はもちろん、その地域の観光産業にも大きな恩恵をもたらす。ねこの「たま駅長」で一躍、その存在を知られるようになった和歌山電鉄「貴志駅」は、昨年末にユネスコの無形文化遺産に指定された技術を生かした駅舎でもある。その無形文化遺産の技術が使われるにあたって、たま駅長の存在が大きな役割を果たしていた。ライターの小川裕夫氏がレポートする。
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世界遺産といわれると、まず、日本国内なら法隆寺や東大寺、姫路城といった歴史的建造物が思い浮かべるだろう。だが、歴史的価値があるのは古い建造物だけではない。ネコの「たま駅長」でブームを巻き起こした、和歌山県和歌山市と紀の川市を走る和歌山電鉄の貴志駅にも、2020年12月にユネスコの無形文化遺産に登録された「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」が使われている。
「貴志駅は2010年に建て替えることになりましたが、和歌山電鉄の車両デザインを担当してくれている工業デザイナーの水戸岡鋭治さんに新駅舎のデザインを描いてもらいました」と話すのは、和歌山電鉄の広報担当者だ。
和歌山電鉄は和歌山駅─貴志駅間を結ぶ約14.3キロメートルの鉄道で、2006年までは南海電鉄の一路線だった。しかし、南海は不採算路線を理由に貴志川線の廃止を表明。沿線住民や沿線自治体が存続を模索し、岡山県の岡山電気軌道が新たに貴志川線を運行することになった。貴志川線は新たに和歌山電鉄として再出発した。
その後、和歌山電鉄の貴志駅に住み着いていたネコのたまが話題となり、全国から多くの観光客を呼び寄せるまでになった。沿線活性化に貢献したとの理由から、たまは駅長に就任。長らく活躍したが、2015年に死去。現在、貴志駅は2代目のたま「ニタマ」が駅長を務めている。