“名店”には創作のヒントが隠れている
左古:料理の絵を描くために取材へ行くこともあるんですか。
安倍:あります。たとえばトンテキは本場の四日市に行きたかったんですけど、時間がなくて諦めました。それで、調べていたら渋谷に「東京トンテキ」という店があったので食べに行って、写真を撮らせてもらいました。生姜焼きと唐揚げが合い盛りになったA定食は「野方食堂」、かつおのタタキは「才谷屋」という店で取材させていただきました。
左古:東京だと旨いかつおのタタキにお目にかかることは稀だけど、「才谷屋」のはほんとうにおいしい。さすが、本場高知の目利きが厳選したかつおを使っているだけあって、高知で食べるものと比べても遜色がないですね。薬味の上から絞っているぶしゅかん(四万十市で栽培されている”酢みかん”の一種)の爽やかな香りと酸味が旨さを倍増させていて、いくらでも食べられます。
安倍:やっぱり名店といわれるお店に行くと、いろいろと勉強になります。そこで聞いた話が『深夜食堂』のヒントになることもあるので、新型コロナはまだまだ続きそうですが、感染対策に気をつけながら、これからもお店を回ろうと思います。
*本文は、新刊『スタミナ深夜食堂』の内容をもとに再編集したものです。
【プロフィール】
安倍夜郎(あべ・やろう)/1963年、高知県生まれ。CM製作会社勤務を経て、2004年に『山本耳かき店』で漫画家デビュー。『ビッグコミックオリジナル』連載の『深夜食堂』は2009年にドラマ化、2010年に第55回小学館漫画賞一般向け部門、第39回日本漫画家協会賞大賞受賞。その他の著書に『生まれたときから下手くそ』『酒の友めしの友』など。
左古文男(さこ・ふみお)/1960年、高知県生まれ。1986年に『YOKOHAMA BAY CITY BLUES』で漫画家デビュー。現在は文筆家・漫画家・編集者として幅広く活動。主な著書は『四万十食堂』(安倍夜郎氏との共著)、『コケを見に行こう!』『クセがつよい妖怪事典』などの他、企画・編集作品に漫画家・水木しげる氏の最後のインタビューをまとめた『ゲゲゲのゲーテ』がある。