また、劇団四季はこれまで、利益のほとんどを専用の劇場の建設や稽古場の維持などに利用し、残りは内部留保にしていました。“舞台人は劇場で稼げ。金で金を生むな”という浅利の教えからです。そうして、ある程度の資産を持っていたことも幸いでした」(吉田さん)
劇団四季は、神奈川県・横浜市のあざみ野に専用の稽古場を持つ。『The Bridge』で初めてオリジナル作品の演出を務める荒木美保さんは、最初の緊急事態宣言が発出された昨年4月のことを回想する。
「稽古場に木でつくった仮の舞台セットが用意されていて、さあ、これから稽古が始まる、というときでした。テレビの報道を見た全員が、先の見えない未来を思って途方に暮れました。明日のことさえわからない状況は初めて。稽古場はそのまま一時的に閉鎖になりました」(荒木さん)
劇団四季は、それから2か月間、俳優もスタッフも自宅待機となる。
「やむを得ず出勤が必要なごく数人以外は、スタッフにはリモートワークを、俳優には自宅待機するよう指示しました。同時に、俳優には、パフォーマンスの低下を防ぐため、オンラインレッスンも実施しました」(吉田さん)
セットだけが残った稽古場で、荒木さんはひとり涙することもあったという。
「でも、私は演出という立場で稽古場に来ることができるだけ、出演者よりも恵まれている、と思いました。彼らは、稽古場に来ることもできず、体を動かすことも、声を出すこともできなかったのですから」(荒木さん)
撮影/平野哲郎 提供写真撮影/阿部章仁、荒井健、重松美佐、山之上雅信
※女性セブン2021年5月6・13日号