広瀬アリス演じる“鬼嫁”に悩まされ…(時事通信フォト)

妹のすずとは違う魅力を持つ広瀬アリス(写真/時事通信フォト)

『地獄の花園』はコメディであり、『いのちの停車場』は社会派ヒューマンドラマ。となれば当然、作品の手触りは異なり、彼女たちが演じる役どころも大きく異なってくる。姉のアリスは“ヤンキーOL”という奇異なキャラクターをエネルギッシュに演じており、一方の妹すずは、大きなトラウマを抱えながらも人々のために奔走する看護師に扮している。どちらも助演のポジションであり、異なる演技のアプローチで作品を支えており、この2人の“違い”が印象的である。

 とはいえ、これまでにアリスはシリアスな役もこなしてきた。映画で言えば『銃』(2018年)で演じた、表向きの明るさとは裏腹に、何らかの問題を内に抱えている女子大生役や、高校生から恐妻までを見事に演じ上げたドラマ『知ってるワイフ』(2021年/フジテレビ系)での好演も記憶に新しい。対するすずも、熱い青春モノやコメディ作品に多く出演し、才能を見せてきた。競技かるたに熱中する快活なキャラクターで作品を率いた『ちはやふる』シリーズ(2016年-2018年)や、薬を飲んで仮死状態となった父親を火葬から救うべく奮闘する女子大生をテンション高く演じた『一度死んでみた』(2020年)などが当てはまる。

 若手俳優の中でもトップをひた走る姉妹なだけに、キャリアの豊富さを見れば、各作品における彼女たちの演技の振り幅の大きさは明らかだ。しかしやはり俳優には、得意とする役どころというものがあると思う。アリスが得意とするのは、感情をより表に出すような役どころであり、すずは役の感情の内面に迫るような役どころである。

 朝ドラ『わろてんか』(2017年-2018年/NHK総合)でアリスが演じた漫才師役は、アリスのコメディエンヌとしての才能を開花させた代表作だし、以降はコミカルな役どころが続いている印象があり、そうでないシリアスな作品と器用に演じ分けているのは事実だ。『Q:A Night At The Kabuki』(2019年)で初舞台を踏んだすずは、ステージ上をパワフルに駆け回り観客を魅了したが、それ以上にキャラクターの内面に迫るシーンに惹きつけられた。大きな身振り手振りよりも、静かに心情を吐露するような細やかな表現が、劇場内の空気を変えていたのを肌で感じた。

 その意味で、『地獄の花園』と『いのちの停車場』は、広瀬姉妹の得意な役どころにまさにマッチしており、どちらもハマり役であることは言うまでもないだろう。感染対策をしながら映画館に足を運び、是非姉妹の“違い”を体感して欲しい。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

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