「あはれなり」は「エモい」「いとをかし」は「ヤバい」
成人の語彙は、ふつう数万ほどあるそうだが、千語あまりを収録したこの辞典にも、知らない言葉は結構、たくさん見つかった。
辞典を読んで、ふだん自分が「うれしい」「楽しい」「面白い」といった単純な言葉しか使っていないことにも改めて気づかされた。
「それはそれでいいんです。ふだんは、少ない言葉を間違えずに使えればいい。
若い人がよく『エモい』という言葉を使いますね。『いい』という意味で何でもかんでも使うので、上の世代は、もっと細かく表現できないのかって批判しますが、細かく表現する必要のないところでは、私は『エモい』でいいと思います。『ヤバい』もそうですね。『エモい』と『ヤバい』では微妙にニュアンスが違うんです。
千年以上前の平安時代の人だって、何かというと、『あはれなり』と言っていた。『をかし』というのもよく使って言います。『あはれなり』は、『エモい』に非常によく意味が似ています。『いとをかし』は、いまの『ヤバい』に近いんじゃないでしょうか。
漠然といいなあっていうときはそれでいいと思いますけど、厳密に言葉を組み立てないと相手に伝わらない、切実な場合だってあるわけですよ。そうしたときのために、自分の中に日頃から言葉を蓄えておくといいですね」
言葉を蓄え、語彙を増やして使えるようになるには、どのようにしたらいいのだろう。
「広い範囲の読書をするのは大事ですね。あとは、表現することに興味を持って、どんな言い方があるか、自分ならどう表現するか、そのことを楽しめる人になることです。この辞典を読んで、もし、自分の気持ちを表す言葉がここにはないな、と思ったら、自分だったらどう言おうかと考えて、思い浮かんだ言葉をこの本の余白に書き足してくださったりするとうれしいですね」
【プロフィール】
飯間浩明(いいま・ひろあき)/1967年香川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院博士課程単位取得。『三省堂国語辞典』の編集委員を第六版より務める。著書に『知っておくと役立つ街の変な日本語』『日本語をつかまえろ!』『つまずきやすい日本語』など。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2021年9月2日号