惜しくもベスト4には残れなかった

惜しくもベスト4には残れなかった

3年前にあった有力選手流出という危機

 今年の3年生が入学して以来、明徳は一度も甲子園を逃していない。2019年夏の甲子園のあと、2020年春のセンバツは出場を決めていたものの大会が中止となり、同年夏の甲子園交流試合に出場。昨秋は高知大会を制して四国大会に進んで今春のセンバツ切符を手にし、そしてこの夏も聖地にたどり着いた。
 
彼らが入学する直前、馬淵監督は窮地に立たされていた。

当時、附属の明徳義塾中学にはふたりのスーパー中学生がいた。既に球速140キロを記録してテレビなどにも取り上げられていた右腕の関戸康介と、左のエースで打撃にも定評があった田村俊介だ。だが、関戸は大阪桐蔭へ、田村は愛知の愛工大名電に進み、それ以外の選手も10名ほどが卒業を前に明徳を離れ、他の高校に進学した。

 もちろん、進学先の選択は本人たちの自由だ。ただ、馬淵史郎という強烈なカリスマ性のある監督のいる明徳への進学をこぞって回避したというのは、高校野球における“事件”だった。

 2019年のセンバツが開催されていた時期、私は明徳の野球道場に足を運び、ふたりの入学を心待ちにしていた馬淵監督を直撃した。

「わしも引き留めはしたんやけど、よその学校に行きたいというのなら仕方ない。選手を鍛え上げて強くするのではなく、素材の良い選手を集めたところが甲子園で勝つ。高校野球が面白くなくなってきておる。『せっかく3年間をここで過ごしたんやから、もう3年間、明徳で過ごして花を咲かせたらどうや』という話はしました。でも、『よその方が強いから』と言われたら、こちらは何も言いようがない。親御さんの意向もある。隣の芝は青く見えるんやろうね……」

 高知空港からいくつも山を越えた先の人里離れた谷あいに位置する明徳義塾で、全員が寮生活を送り、野球漬けの毎日を過ごす。そうした明徳への野球留学を、現代のプロ野球を目指すような有望球児は敬遠しがちなのではないか──そう質問をぶつけた時、声色は変わった。
 
「そうは思わんよ。ここ3年、明徳から3人(2016年古賀優大・ヤクルト、2017年西浦颯大・オリックス、2018年市川悠太・ヤクルト)がプロに入っているし、甲子園でも成績を残しているんやから」

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