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佐藤愛子さんの最新刊『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』

老後を前向きに過ごすコツは?

 単行本『九十歳。何がめでたい』の発売から5年が経った今年、発売になった最新エッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』には「前向き横向き正面向き」と題した一編がある。人生100年時代が現実になったいま、長い老後を前向きに過ごすコツを教えてほしいと問われた佐藤さんの回答がふるっている。

《「うーん」ひとまず私は唸った。―べつに老人が前向きに生きなければならないってことはないんじゃないの? それが私がいいたいことである。もっと端的にいうと、「もう前向きもヘッタクレもあるかいな」という台詞だ》

 そして佐藤さんは自身の「理想とする老後」のありようについてこう続ける。

《小春日和の縁側で猫の蚤を取りながら、コックリコックリと居眠りし、ふと醒めてはまた猫をつかまえて蚤を取り、またコックリコックリ……というような日を送りつつ、死ぬ時が来るのを待つともなしに待っている。この、待つともなしに待っている、という境地が私の理想である》と。

 佐藤さんは「憧れる老後」の境地として良寬禅師の言葉《災難に逢時節には災難に逢がよく候。死ぬ時節には、死ぬがよく候》を引用した上でこう結論付ける。

《前向き、後ろ向き、どうだっていい。老いた身体が向いている正面を向いていればいい。正面にあるのは死の扉だ。扉の向うに何があるかは誰にもわからない。わからなくてもいい》──。

「一億総活躍社会」が謳われる昨今、「前向きに生きなければならない」と強迫観念のように思っているところへ、ユーモアたっぷりに一石を投じる佐藤さんの言葉に、不思議と元気がわいてくるのだ。

※女性セブン2021年9月23日号

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