南海時代があったからこその「江夏の21球」

 広島一筋で終わらず、南海への移籍で古葉氏の指導者人生は大きく開けていった。現役2年、コーチ2年の南海時代を経て、1974年から古巣・広島に復帰。野村選手兼任監督は留任を求めたが、現役時代から親交の深かった広島・森永勝也監督の呼び掛けに応えた。しかし、その森永監督は最下位に終わり、就任1年で退任。1975年は外国人のジョー・ルーツ監督を招聘するも、わずか15試合で辞任。コーチだった古葉氏が後任になると、赤ヘル軍団の快進撃が始まり、広島は球団史上初の優勝を果たした。以降、1985年まで指揮を取り、優勝4度、日本一3度に導いた。

「寺岡孝氏、柴田猛氏、佐野嘉幸氏という古葉政権を語る上で欠かせないコーチとも南海時代に出会っています。野村、ブレイザー野球を知っている彼らが同じユニフォームを着たことで、古葉氏の考え方が広島に浸透した。寺岡氏や佐野氏は若手を育成し、柴田氏は捕手として南海時代に叩き込まれた“シンキング・ベースボール”で、相手の癖やサインを見破ってチームを救いました」

 古葉監督は日本シリーズにも強かった。1975年は阪急に2分4敗と苦杯を舐めたが、1979年、1980年はともに近鉄を、1984年は阪急をいずれも4勝3敗で下した。特に、1979年のシリーズは『江夏の21球』として今も語り継がれている。

「1977年オフに野村選手兼任監督が南海を解任され、野村派の江夏豊も球団を出る決意をしました。その時、古葉さんは旧知の野村さんに江夏の状態を聞き、『まだやれる』と太鼓判を押され、広島への移籍が決まったそうです。もし古葉さんが南海へ行っていなければ、『江夏の21球』も生まれなかったかもしれません」

 日本一の懸かった第7戦で3戦3勝と無類の勝負強さを誇った古葉監督だが、これも南海時代の経験が生きたのかもしれない。

「俗に南海の“死んだふり優勝”と呼ばれる1973年のパ・リーグのプレーオフです。この年から前後期制が導入され、前期は南海、後期は阪急が優勝。後期の両チームの対戦成績は阪急の12勝1分でしたから、まさか南海が勝つとは予想されていなかった。しかし、野村選手兼任監督はプレーオフではシーズン中とガラリと配球を変え、阪急打線を惑わせて3勝2敗で日本シリーズに進出した。コーチを務めていた古葉さんはプロで初めての短期決戦でしたが、この経験が後に活きたのではないでしょうか。1984年の阪急との日本シリーズでは三冠王のブーマーを徹底的に分析し、打率2割1分4厘、本塁打ゼロと封じて広島を日本一に導きました。これが、現在のところ広島最後の日本一となっています」

 現役晩年、古葉氏が南海に移籍しなければ、昭和50年代の広島黄金時代はなかったかもしれない。

2003年には参議院議員選挙、広島市長選挙にも立候補(時事通信フォト)

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晩年は東京国際大学の監督も務めた。東京新大学春季リーグで初優勝して胴上げされる古葉竹識さん(時事通信フォト)

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