ライフ

『残月記』刊行の小田雅久仁氏 創作過程は「例えると化石の発掘」

小田雅久仁氏が新作を語る

小田雅久仁氏が新作を語る

【著者インタビュー】小田雅久仁氏/『残月記』/双葉社/1815円

 Twitter文学賞国内編第1位『本にだって雄と雌があります』から9年。待望の新作を睨み、小田雅久仁氏にもたらされたのは当初、連作短編集に繋がる連載の依頼だった。

「僕は連作短編集って、どうも好きじゃなくて……。連作だと同じ人がまた次も出てくるんやろうとか、主人公は殺されへんなとか、緊張感がないっていうか(笑)。でもせっかくのお話ですし、曜日にちなんだ話を7つ並べたらどうかと思って、まずは月の話を書いたんです。それが想定より長くなってしまい、7つは諦めて方向転換した結果、この月の本ができました」

 題して『残月記』。第1話「そして月がふりかえる」、第2話「月景石」、表題作の全3話はそれぞれ読み口や世界観こそ異なるものの、月やその光が宿す妖しさを通して深淵を覗かせ、この世界の裏側には気を付けろと読者に囁くかのよう。

「確かに太陽より物語性はありますよね。たまたま月にしてよかったです(笑)」

 曜日の中でたまたま月を選び、枚数もたまたま80枚の予定が120枚まで超過。表題作にいたっては連載4回分の準長編となるなど、小田作品では長さも「物語が決める」らしい。

「僕自身、よくわからずに書き始めた物語が『今回はこれくらいの長さになりたい』って、勝手に自己増殖していく感じがあるんです。例えると化石の発掘です。尻尾から少しずつ掘り進むうちに、あ、こういう恐竜やったんやと、着想自体がこうなりたいと長さや展開を書き手に主張してくる。僕は既にそこにある物語を書き付けているのに近い。プラトンのイデアみたいに、完成品がどっかにあるはずやと考えた方が、最後まで挫けずに書けるんです」

 表題作でいえば、着想は「古代ローマの剣闘士」。

「そこから満月の夜に身体能力が高まる狼男を連想し、しかも感染症か何かでその力を得た人々が国難に乗じて誕生した独裁政権の下で闘わされる話にしようと」

 初出は2019年4月。つまりコロナとは関係ないが、本作ではそのどこかで見たような病を〈月昂〉と命名。

〈かつて月昂という感染症が日本の、いや、世界の夜を長きにわたっておびやかした〉〈二十二世紀となったいま、月昂は、天然痘や狂犬病などと同様、先進国の端くれたる日本ではすでに撲滅されたに等しい、“人類がまだ野蛮で憐れだったころ”の“ドラマチックな悲劇”と見なされている〉

関連記事

トピックス

食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
雅子さまは免許証の更新を続けられてきたという(5月、栃木県。写真/JMPA)
【天皇ご一家のご静養】雅子さま、30年以上前の外務省時代に購入された愛車「カローラII」に天皇陛下と愛子さまを乗せてドライブ 普段は皇居内で管理
女性セブン
稽古まわし姿で土俵に上がる宮城野親方(時事通信フォト)
尾車親方の“電撃退職”で“元横綱・白鵬”宮城野親方の早期復帰が浮上 稽古まわし姿で土俵に立ち続けるその心中は
週刊ポスト
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト
本誌『週刊ポスト』の高利貸しトラブルの報道を受けて取材に応じる中条きよし氏(右)と藤田文武・維新幹事長(時事通信フォト)
高利貸し疑惑の中条きよし・参議院議員“うその上塗り”の数々 擁立した日本維新の会の“我関せず”の姿勢は許されない
週刊ポスト
東京駅17番ホームで「Zポーズ」で出発を宣言する“百田車掌”。隣のホームには、「目撃すると幸運が訪れる」という「ドクターイエロー」が停車。1か月に3回だけしか走行しないため、貴重な偶然に百田も大興奮!
「エビ反りジャンプをしてきてよかった」ももクロ・百田夏菜子、東海道新幹線の貸切車両『かっぱえびせん号』特別車掌に任命される
女性セブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
高橋一生と飯豊まりえ
《17歳差ゴールイン》高橋一生、飯豊まりえが結婚 「結婚願望ない」説を乗り越えた“特別な関係”
NEWSポストセブン
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
NEWSポストセブン