医者も薬剤師も知らない
ヴィタレロ医師が言うように、実際に日本でも薬による血圧上昇は起きているのか。
論文には、血圧を上昇させる薬の中で使用頻度の高いものとして、たとえば「痛み止め」として知られる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が挙げられ、その他にもステロイド製剤、抗うつ薬、充血除去薬、抗肥満薬などが高血圧患者に長期間使われていたと書かれている。
高血圧診療を専門とする坂東ハートクリニックの坂東正章医師は、「米国とは医療事情が違うのでそのまま比べることはできない」と前置きしたうえで、こう語る。
「当院では家庭血圧計測結果を診察のたびに確認し、理由を推測できない血圧上昇があれば、何らかの薬剤が追加されているかもしれないと疑います。前述の薬剤のなかでは、気管支喘息、関節リウマチの治療のため、他院でステロイド投与が開始された方で血圧上昇を認めたことはあります。それぞれ必要な投薬なので、その血圧上昇には当方の薬剤を調整して対応しました」
しかし、多くの医師は機械的に降圧剤を処方しているのが実態だ。銀座薬局代表の長澤育弘薬剤師はこう言う。
「多くの医師や薬剤師は薬剤による血圧上昇を重大な問題と捉えていません。また、すべての処方薬について、副作用を正確に覚えている医師や薬剤師も少ないでしょう。ですから、アメリカと同様に、高血圧患者の5人に1人が血圧の上がる薬剤を処方されていても不思議ではないと思います」
しかも、血圧を上昇させる薬は、医師から処方された薬だけに限らない。
「私たちの研究は、あくまで処方箋が出された薬剤について調査したものであり、市販薬のなかにも血圧を上げる薬剤が多々あるということは知っておくべきです。つまり、血圧を上げる薬剤を服用している成人の割合は、今回の調査結果よりも高いと考えられます」(ヴィタレロ医師)
※週刊ポスト2022年1月28日号